日本人が抱える「正しいキャリア」という幻想 経営学者、石倉洋子が読む「ライフ・シフト」
日本ではあいかわらず「教育—仕事—引退」という3つのステージへの「幻想」が強く、多くの人がそれにしがみついています。しかし、本書では多くの制度の前提となっているこの3ステージが、これからいかに通用しなくなるかを、多くのデータとともに示しています。
私はここ数年、前述した世界経済フォーラムの「教育とスキル」「将来の仕事」などの委員会で活動してきています。そこでの世界各国のメンバーとの議論を通して、第4次産業革命が進行し、次々と新しい産業や仕事が登場する現在、これまでの「教育—仕事—引退」が時系列に並ぶ3ステージのライフスタイルはもはや通用しないことが、世界の潮流となっていることを痛切に実感してきました。
世界の企業の人事担当役員は、ロボットや人工知能、モバイル、クラウドなどのテクノロジーの進展や、柔軟性のある働き方を求める価値観の変化などを、これから4~5年の間に雇用や仕事に大きなインパクトがある要因としてあげています。そのため、新しい仕事やスキルを考える上ではこうした要因を中心に、雇用が増える業界、職種、減る業界、職種、スキルの安定性(どれだけ今重要と思われているスキルが2020年にも必要か)などを考える必要があること、個人のキャリアは1社でずっと働くのではなく複数の仕事から成ることを、委員会ではレポートや会議で説明してきました。
また、次々と新しいスキルが必要となるので、個人の知識やスキルを一生磨き続けるライフ・ロング・ラーニングが不可欠なこと、組織に所属しないフリーランスの働き方が増えることなどを、私自身、インタビュー、講演、コラムなどで、繰り返し提唱してきました。しかし、なかなか日本では多くの人にわかってもらえないと焦燥感を感じていました。そこに、新しい時代の働き方・生き方には発想の根本的な転換が必要なことをデータとともに説得的に述べる、本書が登場したというわけです。
高齢化はネガティブなだけではない
日本では急速な高齢化が進んでおり、生産年齢人口の激減、イノベーションの減退など、さまざまな問題につながります。こうした高齢化の議論は、マクロ的な分析や論調が多く、多くの人は自分の問題として捉えていないようです。また世界中の多くの国がこの問題に遅かれ早かれ直面するため、日本は「課題先進国」ともいえます。その日本で高齢化を考えるブレーンストーミングなどをすると、介護ロボットなど日本のテクノロジーの強みをいかすアイデア以外は、とかく暗い話になりがちです。
個人の問題としても、介護のための退職、崩壊しつつある年金制度、若い世代に偏った負担など、おカネの問題が前面に出て、暗い論調になることがほとんどです。
しかし本書では、制度や私たちの考え方の前提になっている3ステージが通用しないのだから、リタイアした後の生計・活動をどうするのかという懸念や心配、不安ばかりを考える必要はない、寿命が長くなると時間の余裕がそれだけ増すので、多様な機会が開かれる、と明るい側面に目を向けています。
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