日本株が「急落するリスク」は消えていない 円安なのに株高になりにくい真の要因は?

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もう一つは、依然として、米株式指数の予想PER(株価収益率、株価÷1株益で計算)の水準が、近年のレンジと比べて、高すぎることだ。これが、先週米国株価が下落した真の要因であれば、「アルコアが」「長期金利が」、というのは、高PER調整のきっかけに過ぎない。

もし、高PERの解消が株価調整の「本尊」であるとすれば、今後も「何でこんな大したことがない材料で、米国株価は下落するのだ」と首をかしげるようなことが、たびたび起こるだろう、ということだ。そうしたささいな材料は、PER低下のきっかけに過ぎないからだ。

加えて、株価調整がどうなると終わるかと言えば、PERが十分低くなれば終わるわけだ。昨年8月も、今年2月も、18倍のレンジ上限に近かったS&P500指数の予想PERが、下限の16倍前後まで低下して、株価下落が一巡した。

もし今回も10~15%程度株価指数が下落すれば、PERは16倍程度になる。ところが、株価が1割も下がれば、ここぞとばかりに悲観論を叫ぶ「悲観ゾンビ」が、わらわらと地の下から表れ、「これは米国に大変なことが起こっている」「株価はどこまで下落するか、見当もつかない」と呪いの言葉を吐くだろう。PER調整が本当の理由であるということを見失い、悲観ゾンビに騙されて誤った株価下落の理由を信じると、底値で株の叩き売りを迫られることになりかねない。

再度ドル安の可能性、日経平均1万5000円台予想継続

では、中国の貿易統計の発表で、米ドル円相場が急激に下振れし、それが日本株下落の要因ともなったことは、どう考えたらよいのだろうか。これは、先週104円半ばを超えたような米ドル高円安が、そもそもタイミングとして早過ぎて無理筋なので、中国の統計発表を単なるきっかけとしてその無理が露呈した、と解釈すべきだろう。

当コラムでは、11月初旬にかけての米ドル安を見込んできたが、11月8日(火)の米大統領・議会選挙に向けて、候補者たちから「米輸出企業の雇用を守るために、米ドル安が望ましい」という発言がなされるリスクが、まだ残っている(もちろん、そうした発言が誰からもなされない、という可能性もある)。

特に対円だけではなく、ユーロ、ポンドといった欧州通貨に対しても、米ドル高が進んでいる。また足元は、中国が元相場の水準を切り下げてきていることもあり、全面的な米ドル高の様相だ。米国から米ドル高に対する不満が出てくる下地は強い。加えて、「本尊」の米財務省半期為替報告書が14日(金)夕方に公表された。引き続き日本は「監視リスト」に載っており、円安に対する警戒感が示されているが、これを週明け17(月)の日本市場で消化しなければならない。

国内に目を転じると、小売を中心とした2月決算企業の半期決算の内容は、高額品消費を中心に冴えない内容が多かった。これから発表が本格化する4~9月期決算も、2割程度の前年比減益が見込まれている。4~6月期の発表時点では、まだ自社の収益見通しを修正しなかった企業が多かったため、今回は大きく下方修正する企業が増えてきそうだ。

こうした米国株価の下落、米ドルの調整、国内企業収益面からの懸念が、11月上旬に向けて重なってくると考え、日経平均株価が1万5000円台に突入する、という予想を継続する(その後は株価の反転上昇を見込んでいる)。そのなかに今週を位置づけて、10月17~21日の日経平均の予想レンジを、1万6400~1万7000円とする。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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