「固定式ホーム柵」は、転落事故防止に有効か ホームドア設置までの「つなぎ」になる?

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内方線(下側)の付いた点字ブロック。内方線がある側がホーム内側、ない側が線路側を示している(写真: yutaadachi / PIXTA)

加藤氏が問題視するのは、ホームドアの設置が費用面などで難しいと思われるローカル線の駅でも転落事故が発生していること、そして設置が決まった駅でも、実際に整備され稼動するまでに時間がかかることだ。

加藤氏は「すべての駅にホームドアが設置されるのが理想だが、地方の小さな駅まで設置されるとは考えにくい。固定柵はあくまで部分的な柵なので100%安全ではないが、命を守るためには取り付けるべき」と主張する。

固定柵の安全性については、さらなる検証が求められそうだ。社会福祉法人日本盲人会連合の藤井貢組織部長は、固定柵について「たとえば6両編成分の長さがあるホームで発着する電車はすべて4両編成という場合、電車の停まらない2両分を柵でカバーするといった方法は安全策として効果的」と話す。だが、電車のドアとドアの間に固定柵を設置する方法については「検証をしてみなければ分からないだろう」と指摘する。また、ある鉄道会社の関係者は、4月に東京の地下鉄で起きたベビーカー引き摺り事故のようなことがあった場合、被害が拡大しかねない点を懸念する。

次善の策としては効果ありか?

固定柵を多くの駅に設置している例としては、東急電鉄の各線が挙げられる。東急では2011年8月に田園都市線の市が尾駅(神奈川県横浜市)に取り付けたのを皮切りに、同線や東横線、大井町線の多くの駅に固定柵を設置した。同社は2020年を目標に、これら3路線の全64駅に可動式ホーム柵を整備する計画だが、「それまでの間、早期に実現可能な転落防止策として」固定柵を設置しているという。

このほか、これらの3路線に比べて編成が短く、列車の速度もやや遅い池上線と東急多摩川線では、センサー付きの固定式ホーム柵を安全設備として設置している。列車の発車時に柵より外に出ると、センサーが反応する仕組みだ。具体的なデータはないものの、固定柵の設置以来、転落事故の件数は以前と比べて減ったようだと関係者はいう。

国交省鉄道局の「駅ホームにおける安全性向上のための検討会」担当者は、「予算の問題など制約もあるが、視覚障害者の方々の貴重な意見を反映していきたい」といい、年内をメドに取りまとめを進める方針だ。さまざまな意見のある固定柵だが、時間のかかるホームドア設置までのつなぎや、設置が困難な駅での「次善の策」として検討の価値はありそうだ。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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