「補助剤」と戦い続けた卓球・水谷選手の覚悟 ラケットの補助剤不正使用問題を検証する

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ラバーに溶剤を塗り込んで反発力を高める行為は、1990年代のはじめに東欧の選手が偶然、接着剤を多量に塗り込んだときにラバーがいつもよりも弾むことを発見したことが始まりだったといわれている。

その行為はやがて世界中の選手が知ることになり、メーカーは弾む接着剤を開発した。「スピードグルー」と呼ばれる有機溶剤接着剤である。このグルーをラバーに大量に塗り込んでラケットに貼り付けると、ゴムの分子と溶剤の分子が結合してテンションがかかり、反発力が増した。グルーにはシンナーと同様、人体に有害な成分が含まれていたが、日本を含む世界中の選手が使用していた。

事故が起きたのは、2007年である。グルーを塗っていた日本の選手がアナフィラキシーショックを起こし、意識不明の重体になったのだ。日本卓球協会はいち早くグルーの使用禁止を勧告し、ITTFも2008年の北京オリンピック後にグルーの全面禁止に踏み切った。

だが、卓球界の迷走はここから始まった。

検査機では検出できない補助剤を使用

水谷ら日本選手はグルーを塗らない状態でさまざまなラバーを試打し、新たな用具を決めていったが、新たな方法でグルーと同じ感覚を求める選手たちもいたのだ。

彼らが考え出したのが、補助剤である。補助剤を塗り込む行為はITTFが禁止している「ラバーの後加工」にも該当するが、石油系油脂でできている補助剤は揮発性が低く、揮発性の高い有機溶剤の成分を検知するITTFの検査機では検出できなかった。

ラバーが弾む理由はグルーと同じで、補助剤を塗ったラバーで打つと、ボールの威力や回転力が増すだけではなく、ラバーが柔らかくなってコントロールもつけやすくなる。

このインタビューの際、水谷は中国で手に入れた補助剤を実際にラバーに塗り、ボールを打ってその違いを見せてくれた。打球の違いはわかりにくかったが、独特のカン高い打球音が響くのはわかった。国際大会でもその音で補助剤の使用がわかるといい、2009年春に横浜で世界選手権が開かれたころには、多くの選手が補助剤をラバーに塗り込んでいたという。

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