トランプは米国の「暗黒面」を巧みに利用した 煽ったのは「恐怖」「怒り」「疑念」だ

✎ 1〜 ✎ 7 ✎ 8 ✎ 9 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

従来型の政治家には、この「クソ投稿」によって「熱心な支持者が一つにまとまり、そのうち外部から真実を提供されてもそれに目を向けなくなる」という現象が理解できない。こうしたトランプ支持者のグループ内では、外部の批評家たちに対しては誰であれ、耳を貸す価値がないと見なされる。

この「パラレルワールド」に息づく力に気づかず、世論調査会社や報道関係者たちは、何カ月もの間、トランプを過小評価していた。

しかし、トランプがニューハンプシャー州の予備選で20ポイント差をつけて勝つと、専門家たちにも彼が持つ力の真実が見え始める。彼はサウスカロライナ、ネバダの2州でも勝利した。スーパー・チューズデーで11州のうち7州をものにすると、候補者指名が現実味を帯びた。

数カ月前には考えられなかったことが実現し、共和党の主流派は、トランプを指名するという筋書を避ける道を必死に探り始めた。彼らは、「トランプは、コアな支持者こそ集めているものの、民主党の指名が濃厚なヒラリー・クリントンに勝てるほどには中間層や民主党支持層を引き寄せられないだろう」と懸念したのである。

党幹部たちが不安を抱いたのは、2012年の大統領選に敗れた後の正式な事後研究で、共和党敗北の原因は国政選挙で当選する際の鍵となる特定の大きな層、「ラテンアメリカ系・黒人・女性・アジア系」などを敵に回してしまったことにあるとの結論が出ていたからだった。

トランプはこれらの層の有権者を共和党からさらに遠ざけていたため、党を長年率いてきた幹部たち、とりわけ2012年の大統領選でミット・ロムニー候補の陣営にいた幹部たちは危機感を抱いた。その一人、ケビン・マッデンは、トランプは「人間性をテストするリトマス試験紙」のようなもので、彼を支持することはそのテストの落第を意味すると語った。また、同じくロムニー陣営にいたスチュワート・スティーブンスは、民主党のヒラリー・クリントンのほうが大統領にふさわしいので彼女に投票すべきだと呼びかけた。

トランプは世界でのアメリカの立場を脅かす?

『熱狂の王 ドナルド・トランプ』(クロスメディア・パブリッシング)。画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

その後もトランプが勝ち続けると、共和党主流派の中でそれまで落ち着いていた面々も、彼が党のトップに就くのを阻止するために団結した。予備選で、それが無理なら党全国大会でその流れを食い止めるため、ロムニーらが率いる「トランプ以外の誰か」の勝利を目指す同盟が結成された。ロムニーは「不誠実がトランプの本性だ」と述べた(トランプは仕返しに、「2012年に会ったとき、自分の支持を得るためにロムニーがオーラルセックスをした」という冗談を言った)。

また、保守系「ウィークリー・スタンダード」誌の編集長のウィリアム・クリストルは、共和党候補の代わりに無所属か第三極の大統領候補者を支援する意向を表し、バージニア州選出共和党議員のスコット・リゲルは「彼に投票できないだけでなく、彼が勝ち進むのを黙って見ていることもできない」と語った。ほかにも、同じような意見を述べた共和党の外交政策専門家が60人いた。多くが外交官や大統領顧問の経験者で、トランプは世界におけるアメリカの立場を脅かす存在だと批判した。

大統領候補の彼は、理想に欠け、権力をつかむという意志以上のものをほとんど示していない。共感と倫理という固い基盤がない中、人種憎悪を利用し、女性嫌悪を増幅させ、暗黙のうちに暴力を奨励している。選挙が近づくにつれ、彼の人間観がますます明らかになっている。

(翻訳:高取 芳彦、吉川 南)

マイケル ダントニオ フリージャーナリスト、ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

まいける だんとにお / Michael D'Antonio

フリージャーナリスト、ライター。プルトニウム汚染の脅威を追及した『アトミック・ハーベスト』(小学館)、感染症の恐怖を描いた『蚊・ウイルスの運び屋』(共著、ヴィレッジブックス)をはじめ、これまで10冊以上の本を上梓。『Newsday』の記者時代にピュリッツアー賞を受賞。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事