トランプは米国の「暗黒面」を巧みに利用した 煽ったのは「恐怖」「怒り」「疑念」だ

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その数日前には、アラバマ州バーミングハムで開かれた集会で、彼の演説を遮った反トランプ派の黒人にトランプ支持者が殴る蹴るの暴行を加えていた。トランプは(明らかに誰かれかまわずといった様子で)「そいつをつまみ出してくれ。放り出せ!」と声を上げた。トランプ陣営の広報担当者はCNNに対し、「われわれはこの(暴力)行為を見過ごさない」とコメントしたが、トランプ自身の考えは違った。「あの男は痛い目に遭って当然だ。なにしろひどい態度だったからね」と言うのだ。

トランプの選挙演説は、原稿も特段の準備もなく行われ、政策が詳しく語られることはない。自身の莫大な富、優れた知性、すべてにおいて「勝利する」という生来の能力について語る彼は、正式な大統領候補というより、ハリウッドのコメディ映画の登場人物のようだ。柔軟に表情を変え、嫌悪や怒り、憤り、満足といった感情を表現し、身振り手振りで強調したい点を示す。体に障害のある記者の話をするときには、その記者のしぐさを真似してばかにする。

白人至上主義団体「KKK」元最高幹部との関係

対立候補たちとともにアメリカ最南部の有権者に支持を訴えたとき、アメリカの政界で最も有名な人種差別主義者とも言うべきトランプは、アメリカの白人が彼に反対することは「自分たちの立場に対する裏切り」だと発言した。

黒人・ユダヤ人・カトリックなどを幾度となく恐怖に陥れてきた白人至上主義団体、クー・クラックス・クラン(KKK)の元最高幹部に、デービッド・デュークという人物がいる。2000年、トランプは当時所属していたアメリカ改革党を脱退する理由を説明した際、自らデュークの名前を出して、「偏狭な人種差別主義者の問題人物」と呼んだ。

しかし2016年、アメリカ最南部での予備選を前にしたトランプは、デュークからの支持表明を受けても、彼が誰だか思い出せないようだった。さらに、白人至上主義運動の何たるかを理解していないとも言った。CNNのジェイク・タッパーとの生放送でのインタビューで、「白人至上主義や白人至上主義者という言葉を使われても、あなたが何を言おうとしているのかわからない。その人物が私を支持したか何かしたのか? デービッド・デュークのことなど何も知らないし、白人至上主義者のことも知らない」と語ったのだ。

人種差別団体からの支持をはっきりと拒否しなかったばかりか、かつて自分が「偏狭」と呼んで非難した人物のことを知らないと言い張ったのである。これを受け、共和党内でも反発が起きた。ポール・ライアン下院議長は「共和党の指名を受けたければ、逃げることもふざけることも許されない。偏狭な団体や運動からの支持は、どれも拒まなければならない。わが党は人々の偏見を利用したりはしない」とコメント。論争が加熱すると、トランプは、自分が過去に何度かデュークとの関与を否定しているという点を指摘した。

この論争はマスコミを大いに騒がせ、当然ながらトランプが好意的に取り上げられることはなかった。それでも彼は大衆に向けて語り続け、3月最初の火曜日、11州で投票が行われる「スーパー・チューズデー」で7州をものにした。

次ページ人々の不満と怒りをうまく利用して勝ち抜いてきた
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