年間数百万円!米大学の学費を下げる「妙案」 戦闘機1機の節約が大きな違いを生む

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この問いかけ自体には十分な価値がある。だが、もっと重大なのは、兵員確保のために授業料を高くとどめる必要があるのか、進学面の不平等は国防強化に役立っているのか、という点だ。

もうちょっと深く見てみよう。すべての米国民のうち、従軍経験者は約7%で、現在従軍中なのは0.5%弱だ。残る99%超の大多数の人々はなぜ、放置されているのだろうか。

高等教育への門戸拡大は常に議論されてきた。クリントン氏は民主党の指名獲得競争で、公立大学の授業料無償化という過激な提案をしたライバルのバーニー・サンダース氏を打ち負かすため、もっと穏当な提案をした。共和党の大統領候補、ドナルド・トランプ氏も、今後の論戦でクリントン氏を批判する材料として、この話題を持ち出すだろう。

カネの問題は大切だが、国がそのカネを使って何を手に入れられるかはもっと大事だ。米国で軍が高等教育にかけている授業料などのコストは、ざっと計算すると年間で1人当たり5万3000ドルになる。

これに対し、F35戦闘機1機の値段は1億7800万ドルだ。つまり、戦闘機をたった1機節約すれば、大学に必要な資金の3358年分を生み出せる。何機か購入を見送れば、現在は大学に手の届かない多数の人々が進学できるようになるのだ。

「頭脳への投資」の価値

米国は1970年代に崩壊した工業主体の産業基盤を、21世紀で競争力のあるものへと移行させようと奮闘している。それは教育を通じて達成するしかない。賢い人が増えるのは、繁栄をもたらすスマートな仕事に従事する人々が増えるのと同じことであり、最も重要な既存インフラの一つ、すなわち頭脳に投資すれば実現可能だ。

確かに、米国が国防にどの程度の資金を費やし、その予算をどう配分するかは複雑な問題だ。米国の国防予算は約6070億ドルと世界で突出している。高等教育の機会拡大のためのコストはそのごく一部に過ぎず、増額する余地は他のどの項目よりも大きい。

退役軍人はその恩恵を減らすべきだ、とは誰も思わないだろう。しかし、高等教育の機会がもっと広がると進学資金を払えるようになる1国民の立場からすれば、国の将来をダーウィン流の生存競争システムに単純に委ねたままにしておくのは、非常に悪いことのようだ。

筆者のPeter Van Buren氏は米国務省に24年間勤務した経験があり、著書「Hooper's War: A Novel of WWII Japan」が近く出版予定。このコラムは同氏の個人的見解に基づいている。

 

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