次世代DVD戦争 勝者なき結末の予感

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世界最大の米国市場で次世代DVDの覇権争いが過熱している。HD DVD、ブルーレイ・ディスクの両陣営が繰り広げる価格競争は、勝者なき悲惨な結末を招きかねない。(『週刊東洋経済』11月17日号より)

「ウソだろ? DVDプレーヤーよりも安いじゃないか」。ある大手家電メーカー幹部は、その値段を聞いて絶句した。

震源地は全米小売り最大手のウォルマート。11月2日から始めた年末の特売で、目玉商品として東芝製の「HD DVD」の再生専用機を、なんと98.87ドル(日本円で約1万1000円)で売り出したのだ。

これが現行のDVD再生機ならば誰も驚かない。DVDは発売からすでに10年が経過した典型的な成熟製品で、北米では今や通常の再生機が数十ドル、有名ブランドの高性能機種でも100ドル台で手に入る。だが、HD DVDの再生機は最新技術を搭載した次世代DVD対応機であり、昨年春に第1号機が登場したばかり。そんな“最先端”の代物が、期間限定の特売とはいえ、DVD並みの価格で店頭に並べられたのだ。特売当日には全米中のウォルマートに行列ができ、用意していた東芝の再生機は即日完売した。

実は、この日、米国ではもう一つの次世代DVD規格「BD(ブルーレイ・ディスク)」でも大きなイベントがあった。ソニーが最新据置型ゲーム機「プレイステーション3(PS3)」で現行品よりも100~200ドル安い廉価版機種を投入し、400ドル以下で買えるようになった。BDの再生機能を持つPS3の普及に弾みがつけば、BD陣営の追い風となる。そのタイミングで飛び出したHD DVDの衝撃価格。「旧型モデルの在庫を大量に抱えていた東芝が、PS3対策も兼ねて、ウォルマートで一気にたたき売ったのではないか」。現地の家電、流通関係者らの間ではこんなうわさも飛び交い、余震はいまだ収まらない。

次世代DVDは高精細ハイビジョン映像の長時間収録ができ、現行DVDよりも鮮やかな映像が楽しめる。だが、その規格は東芝が推す「HD DVD」とソニーや松下電器産業などが提唱する「BD」に分裂。両陣営は昨年から商品を発売し、「業界標準」の座を目指して激しい火花を散らす。普及はこれからが本番だが、米国では早くもすさまじい価格競争へと突入している。

その口火を切ったのが東芝だった。今年4月、それまで499ドルで販売していた主力機種を399ドルへ、さらに翌月に299ドルへと実質値下げし、販売台数を伸ばした。世界的なAV機器メーカーが集まるBD陣営に対し、HD DVD陣営の有力家電メーカーは東芝1社だけ(表参照)。陣営の数で劣るため、徹底的な低価格戦略を武器に「先行逃げ切り」をもくろんだのである。

BD側も黙ってはいない。6月にはソニーが新たに499ドルの廉価版再生機を投入。松下も昨年秋に1000ドル以上で発売した機種を6月に599ドルに実質値下げし、東芝の動きに対抗した。

これで米国では次世代DVD再生機の価格下落が一挙に進み、昨年末からわずか半年で店頭価格が半値近くになった。さらに、両陣営とも自身の規格を支持する映画会社との共同販促キャンペーンを大々的に展開。今や米国では、次世代DVDの再生機を購入すると、1本30ドル相当の映画ソフトが5本以上おまけでついてくる。日本の販売ではありえない大盤振る舞いだ。

当然、こんな価格で採算が合うはずもない。東芝でデジタル家電を統括する藤井美英常務は「利益? 出てないよ。市場を立ち上げるときには先行費用が膨らむ。しかも、普及させるためには戦略的な値付けが大事。そこはまさに高度な経営判断だ」と言う。もっとも、採算割れはBD陣営も同じ。BD陣営の有力メーカー幹部は「ただでさえ、今の限られた台数では利益が出ない。しかも、東芝が無茶苦茶な安売りをするせいで、米国がとんでもない値段になっている。正直、事業の収支は非常に厳しい」と内情を打ち明ける。

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