西武秩父線は本当に収益力がないのか サーベラスが廃線を提案する路線の採算性を分析

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西武秩父線の終点・西武秩父駅は東京から100キロメートル離れた地方駅だ。当然、乗降客数は都心の駅よりも少ない。だが、地方にある大手私鉄の終着駅の乗降客数と比較して決して少ないわけではない。その「終着駅の乗降客比較」をまとめた(左図参照)。西武秩父駅の1日平均の乗降客数は6919人。京王線の高尾山口駅の同1万0268人には及ばないが、東武伊勢崎線の終着駅である伊勢崎駅の乗降客数よりは多い。

西武秩父駅の乗降客数は東武日光駅よりも多い

乗降客数の内訳にも注目したい。西武秩父駅の場合、定期が2936人、定期外が3983人という内訳となっている。普通乗車券で乗車する定期外の乗客が多いということは、観光やイベントで訪れる乗客が多いと推察できる。西武秩父駅の場合、定期外が6割近くを占める。通勤・通学路線というより、観光などで訪れる乗客が多いと思われる。さらに人数自体も有数の観光地と知られる東武日光駅よりも多い。秩父鉄道との乗換駅ということもあるが、ほかの地方駅と比べて劣る数字ではない。

実は今、西武鉄道は秩父の観光客誘致に力を入れている。「相互直通運転を機に秩父や川越といった地域をPRしていきたい」(西武鉄道・若林 久社長)と語るように、3月16日に東急東横線渋谷駅の地下化で実現した東急東横線との直通運転化で、横浜方面から西武線沿線への集客が期待できるからだ。

そもそも秩父は、温泉こそないが、長瀞のライン下りや、羊山公園の芝桜、秩父夜祭など観光資源は豊富。最近では秩父を舞台にした『あの日見た花の名前を僕達は知らない。』(通称「あの花」)のヒットで、「聖地巡礼」と称して同地を訪れるアニメファンが増えている。

市内でも「あの花」のフラッグがあちこちの柱に飾られ、「あの花」関連のみやげ物もたくさん販売されている。3月1日からは、西武鉄道として初めてテレビCMを放映。女優の吉高由里子さんをイメージキャラクターに起用し、西武秩父駅の仲見世通りや長瀞の岩畳などの名所を巡り、秩父の魅力を伝える内容となっている。

そうした矢先に起こったTOB騒動と廃線論議。違った形で、西武秩父線が話題となってしまった。この騒ぎは秩父の観光需要によい影響を与えないかもしれない。

宇都宮 徹 東洋経済 記者

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うつのみや とおる / Toru Utsunomiya

週刊東洋経済編集長補佐。1974年生まれ。1996年専修大学経済学部卒業。『会社四季報未上場版』編集部、決算短信の担当を経て『週刊東洋経済』編集部に。連載の編集担当から大学、マクロ経済、年末年始合併号(大予測号)などの特集を担当。記者としても農薬・肥料、鉄道、工作機械、人材業界などを担当する。会社四季報プロ500副編集長、就職四季報プラスワン編集長、週刊東洋経済副編集長などを経て、2023年4月から現職。

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