東芝の解雇無効「6000万円賠償」が示す教訓 元社員はなぜうつ病で長期休職になったのか

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第4は、「うつ病の兆候が見られたのに負荷を減らさなかった」という上司の姿勢に問題はなかったのかということだ。

東京地裁は、次のように原告のうつ病の発生経緯を認定している。

「被告は、遅くとも同年(平成13年)4月には、原告について、その業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っていたものと解するのが相当である。
にもかかわらず、被告は、同年4月以降も原告の業務を軽減することなく(中略)原告が平成13年4月にうつ病を発症し、同年8月ころまでに症状が増悪していったのは、被告が、原告の業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないような配慮をしない債務不履行によるものであるということができる」

 

詳細な経緯も判決文中に示されているが、業務負荷の軽減を直属の課長に訴えて聞き入れられなかった結果、体調不良で1週間以上休んだにもかかわらず、復帰後も「(休んだから)もう大丈夫でしょう」ということで、負荷の軽減が認められなかった。

その後も繰り返し課長への負荷軽減を訴え、ようやく業務の一部の担当を外れることを承認されたものの、「後任者が見つかるまでの間は続けてくれ」と言われ、実質的には担当を外れることができなかったということだ。

親身な対応が受けられなかった結果、ついには「会社にいることが嫌でたまらなくなり、わけも分からず涙が止まらない状態となった」「元気がなく、席にすわってボーっとしていて、パソコンの画面を見ながら、手が止まっているなど、普段とは違う様子がうかがえた」という状態にまで陥り、その後は欠勤、休職ということになってしまった。

当該課長がなぜ負荷の軽減を早期に認めたり、後任者を探したりしなかったのか真意は分からないが、早期に部下の異常を察知し、負荷を軽減させていれば、結果は違ったものになったかもしれない。

以上が、判決文の中から私が気付いた会社の労務管理の問題点である。ここまで述べてきたことを整理すると、逆に言えば、次のようなことに気を付ければ、過重労働によるうつ病の発生を防ぐ有効策になるのではないかということだ。

①社員の実労働時間を正確に把握できる仕組みをつくる
②無理なものには無理と言える職場風土をつくる
③突発残業や無駄な残業を減らすため、計画的な仕事の進め方をする
④管理職にメンタルヘルスの重要性を理解させる

経営者の熱意があれば実現できる取り組み

いずれも、多額の投資が必要となるような話ではなく、「社員の過重労働やうつ病を防ぎたい」という経営者の熱意があれば実現できる取り組みである。

過重労働に苦しんでいる人の「気付き」や「解決」の糸口になれば幸いであり、また、自社で同様のことが起こっていないか、経営者の方や人事担当者の方にセルフチェックをして頂ければと思う。ただし、これらの問題点は、元社員が当時所属していた部門における労務管理について考察したものであり、東芝全体の労務管理が同様であったという趣旨ではないことに注意されたい。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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