鉄道8社がタッグ!「東武」SL復活の本気度 日光・鬼怒川の新たな「目玉」になれるか

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SL復活運転のために新設された検修庫をバックに、東武の線路上に姿を現したC11形207号機。ヘッドライトや運転室は輸送のため外した状態だ

秩父鉄道によると、SL列車の乗客のアクセス手段は「鉄道と車がほぼ半々で、やや鉄道が多い」という。

特急列車で都心から1時間台となる東武のSLとは競合しそうにも思えるが、「逆に、首都圏でSLを走らせている鉄道が2つあることで、遠方の人に行ってみたいと思ってもらえればいい」(秩父鉄道の担当者)。何らかのコラボ企画なども「もし機会があれば、できればいいですね」と前向きだ。

一方、東武と同じ栃木県内でSLを運行する真岡鉄道の担当者は「(東武のSL運転は)影響あるでしょうね」と率直な感想を漏らす。同社のSL列車の乗客は首都圏から訪れる観光客が大半といい、「こちらは都心からだと乗り換えが必要だが、向こう(東武)は都心から特急で一直線」と指摘する。

だが、東武のSL復活には機関士などの人材育成で協力している。「共存共栄が大事」との考えからだ。真岡鉄道は1994年からSLを運行しており、首都圏ではJR東日本が信越線で運行するSL列車や秩父鉄道などと比べ、決して都心からのアクセスが良いとは言えない中で健闘を続けてきた。首都圏の他のSL列車との違いについて同社は「年間を通じて運行していること」を挙げる。また、リピーターを飽きさせない工夫として「ハロウィン号」「新年号」など、季節ごとのイベントも行っているという。

東武のSLの「売り」は何か

全国のほかのSL列車も、単に蒸気機関車が走るというだけではなく、さまざまな「見せ場」作りに腐心している。SL保存運転のパイオニアで、今年で運転開始から40周年を迎えた大井川鉄道は「きかんしゃトーマス」が人気を集めるほか、戦前から昭和30年代にかけて製造された旧型の客車を使い、懐かしの汽車旅が体験できることが売りだ。

また、JR西日本の山口線(山口県・島根県)を走る「SLやまぐち号」は来年度、展望車などかつての旧型客車を再現した新型車両を導入する。SL列車や観光列車が各地を走る今、SLの珍しさに加え、他との差別化を図ることのできる「プラスアルファ」づくりがSL列車の成功には重要といえそうだ。

東武のSL復活運転の売りについて、守都さんは「日光・鬼怒川という大きな観光地を走る点はほかにない魅力。また、運転距離が12.4kmと短いため、短時間でSLの魅力や地域の魅力を感じてもらえる」と説明する。走るエリアの魅力をセールスポイントとするなら、地域との密接な協力体制は不可欠だ。地元との協力については「日光市へも毎週のように足を運んで話をしている」と守都さんはいう。

国内のさまざまな鉄道会社の協力を得て、いよいよ動き出した東武のSL復活運転プロジェクト。道産子蒸気機関車の背負う期待と、その行方に注目が集まる。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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