「ご縁」という日本語に込められた深い意味 どれ一つ取ってみても、当たり前ではない

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その例が、「ご縁」は時として「Our meeting was linked by fate!」と訳されることがあります。これは「私たちの出会いは(神に定められた)運命によって結ばれていた」というような意味なります。

縁起という教えから生まれた「ご縁」

では、「ご縁」に含まれるその不可思議なはたらきとは、一体何なのでしょうか?

私は、この根底にあるのは「物事はすべて繋がって成り立っている」という考え方だと思っています。これは、仏教でいう「縁起(えんぎ)」の教えです。縁起とは「因縁生起(いんねんしょうき)」の略です。物事には因(原因)があり、それに縁が作用して生起(物事/結果が起こること)すると読み解きます。

これは英語で考えた方がよりイメージし易いので、英単語で説明します。縁起は英語では「Dependent Co-Arising」といいます。

「Dependent」とは、「依存する」という意味です。「Co」とは「同時に」を指し、「Arising」は「起こる(生起する)」の意味です。つまり、「(物事は)同時に生じること(の作用)に依存して成り立っている」という意味です。

出会い一つにしても、数えきれない無数の事象が関係し合って成り立っています。別の言い方をすると、無数の事象が一つでも欠けていれば、その出会いはまた違ったものになり、極端な言い方をすれば、その出会い自体が存在していなかったかもしれません。

実は、今直面している私たちのそれぞれの現状は、無限に広がる生起の重なり合いによって成り立っており、不可思議としか言いようがありません。これが「ご縁」という言葉の中身です。

「ご縁」という言葉は縁起に由来していますが、本来ならば「縁」だけで充分です。しかし、「縁」の前に「ご」が付くのはなぜか考えたことはあるでしょうか?

普段、私たちは当然のように人と会い、ご飯を食べ、生活していますが、実はどれ一つとっても不可思議なことであり、当たり前ではないのです。無意識にも二度と巡り遇うことができないという感覚がはたらき、有り難い(めったにない)という感謝の気持ちが起こり、「縁」を尊ぶために「ご」という敬語を付けて「ご縁」というのです。

私の口癖になっていたこの言葉をからっぽにしないためにも、事象の背景にあるものに目を向け、自分を包んでくれている「ご縁」に感謝することを忘れないようにしたいと思います。

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大來 尚順 浄土真宗本願寺派僧侶

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おおぎ しょうじゅん / Shoujun Oogi

1982年、山口県生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶でありながら、通訳や翻訳も手掛ける。龍谷大学卒業後に単身渡米。カリフォルニア州バークレーのGraduate Theological Union/Institute of Buddhist Studies(米国仏教大学院)に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。帰国後は東京と山口県の自坊(超勝寺)を行き来しながら、僧侶として以外にも通訳・翻訳、執筆・講演などの活動を通じて、国内外への仏教伝道活動を実施。翻訳著書も多数出版する傍ら、初級英語で仏教用語をやさしく解説した「英語でブッダ」(扶桑社)も非常に好評のほか、「お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺」(テレビ朝日系列)にも出演。
 

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