メガバンクで奮闘!”均等法女子”の生き方 「前例のないこと」を積み上げ、道を作る

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「予算を持たない部署」が新境地に挑む

実は、同室には銀行につき物の「予算」がない。件数目標もない。銀行の予算は単年度で組まれる。一方のクラスター室は「期間にとらわれず、顧客の中長期的課題を一緒に解決する部署」(工藤)だ。

そもそも予算の概念と合わない。件数目標を持つと、身近な“やりやすい”案件ばかり増えてしまう。短期ではなく中長期、儲かる案件ではなく、やるべき案件。あえて遠回りするのが、クラスター室だ。

それだけに同室のメンバーには、明確な目的意識を求める。フリーハンドのポジションであればこそ、厳しい自律が必要になる。工藤は室長に就任してから、同室としてのビジョンや自分の考えを伝えるために、メンバーとのコミュニケーションの機会を増やした。

「部下には厳しく接することもありますよ」。工藤はそう笑う。前例のないことを進めるときこそ、足元を固める必要がある。案件の分析、書類の作成、監督官庁とのすり合わせ。銀行として必要な枠組みは絶対に外さない。そのうえで、世の中に求められていることは何かを考えていく。言うまでもないことだが、やるべきことができなければ、新しいことにはつながらないのだ。

工藤は自らのキャリアを「非常に恵まれていた」と振り返る。工藤は行内では「PFの人」だが、国際部での審査業務や、香港の現地法人ではデリバティブ業務も経験している。

“均等法女子”をことさら意識してきたわけではない。あくまでも自然体。銀行の仕事は、1人では何もできない。上司や部下のサポートがなければ、新しいチャレンジはできない。特にチームで動くPF出身の工藤にはその思いが強い。

鈍感力も、やっぱり必要

ベトナム、メキシコ……。クラスター室ではいくつかの事業化調査が進行中だ。

日本政府が温暖化対策として新たに打ち出す二国間オフセット・クレジット(日本の低炭素技術による相手国の温室効果ガスの排出削減の貢献を、日本の貢献分として評価する仕組み)にも積極的に取り組んでいる。今年1月、1号案件になったモンゴルでは事業化に向けた調査を行っている。

工藤はそれほどプレッシャーを感じていないという。「その点では鈍感かもしれない。一度決めたら、とりあえずやってみる」。今後は医療や介護、消費財の分野にも取り組んでいきたいという。

日本の持つ技術やノウハウを、もっと外に売り込んでいく。仮に事業化に至らなくても、それが企業にとって何かのきっかけになればいい。工藤は「銀行ができることはもっとある」と思っている。(=敬称略=)

(撮影:梅谷 秀司)

並木 厚憲 東洋経済 記者

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なみき あつのり / Atsunori Namiki

これまでに小売り・サービス、自動車、銀行などの業界を担当。テーマとして地方問題やインフラ老朽化問題に関心がある。『週刊東洋経済』編集部を経て、2016年10月よりニュース編集部編集長。

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