「月給制で働く人」が見落とす最低賃金の基本 あなたは「本当の時給」を把握していますか

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最低賃金がニュースになると、パートやアルバイトで働く人が主にインタビューを受けて、「最低賃金をもっと上げてほしい」「まだまだ生活が苦しい」などとコメントすることが多いものの、社会保険労務士を務める私の肌感覚としては、少なくとも首都圏においては人手不足の観点から昨今は時給1000円前後の求人が目立ち、市場原理によってすでに今年度引き上げ後の最低賃金をクリアしている求人が少なくないと思われる。

月給制の人は最低賃金を意識していない人も少なくない

一方、正社員や契約社員といった月給制で働く労働者の中には、この最低賃金を意識していない人も少なくないかもしれない。もちろん時給で考えると月給者にも最低賃金法は適用される。もし、月給を月平均の所定労働時間で時給に換算した金額が、最低賃金を下回っていたら最低賃金法違反となる。

具体的には、以下の計算式に当てはめることとなる。

「月給÷((年間総労働日数÷12)×1日の所定労働時間)」

近年は、基本給の一部を残業代に組み込む「固定残業代」の制度を取り入れる企業が増えている。比較的多いのはサービス業だ。固定残業代を採り入れている企業では、支給される給与の額面が、表面上はある程度高く見えても、残業代に充当される部分を除いた純粋な基本給の部分が最低賃金の対象となるのは意外と盲点だ。しかも、有名企業であっても全国で最も高い東京都においては最低賃金ギリギリというケースがある。

たとえば、激安の殿堂で有名なドン・キホーテがリクナビ2017で公開している初任給等の条件を抜粋すると、以下の通りである。

■ドン・キホーテ
・大学、大学院卒 月給23万円
<内訳>基本給:15万4400円、残業40時間分として固定残業手当7万4600円、ライフプラン手当:1000円
・シフト制(実働8時間)
・月公休9日、シフトによる交替制

 

このデータをもとに時給を計算してみよう。

年間休日数は9日×12カ月=108日。固定残業手当を除いて計算すると

15万5400円÷((365-108日)÷12カ月)×8時間=907.02円

地方都市ならまったく問題ないが、2015年度の東京都の最低賃金である時給907円で考えるとギリギリ上回っているという計算になる。

この給与条件は昨年度の実績に基づく参考情報ということであるが、東京都の最低賃金が予定通り25円アップした場合、最低賃金は932円になるので、前年度と同じ条件では来年4月の入社時点において、新卒者の賃金が最低賃金を下回ってしまうおそれがある。

また、前年度に入社した社員も、すでに昇給などがあり、今年度の最低賃金をクリアできる水準になっていればよいが、昇給していない人に関しては、最低賃金が改定された日から無条件に昇給させなければ違法状態ということになってしまう。ドン・キホーテにとってはこの点の対応が必要になるとみられる。

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