豊橋駅が新幹線で珍しい地上駅になった事情 周りは高架線、歴史に埋もれた跨線橋の秘話

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夏の三河湾といえば、三河大島。新幹線から見る、瓦屋根越しの景色はどこか昭和の趣を感じる

さて、豊橋を発車した新幹線は蒲郡市に入り、やがてA席側に三河湾が見えてくる。

東海道ベルト地帯を駆け抜ける東海道新幹線だが、海が見える区間はあまり多くない。いちばんよく見えるのは、小田原から熱海にかけての相模灘で、あとは静岡県の由比、田子浦、清水でチラリと見えるくらい。

蒲郡の三河湾は、新幹線が久々に海に近づくポイントだ。他のポイントと異なるのは、列車と海岸の間に立派な瓦屋根の住宅街があること。

この辺りは、蒲郡市三谷。江戸時代から漁業や海運業で栄えた港町で、明治中期以降漁業が発展した。現在は三谷温泉で知られ、三河湾観光の中心地となっている。新幹線と海岸に挟まれた市街地には今も明治時代の家屋が多数残っており、その車窓風景は1964年の開業時からあまり変わっていない。

小高い山の上に見える「人影」は、安産や子授かりで知られる、子安弘法大師像。標高約100mの弘法山山頂にある弘法山金剛寺の本尊で、コンクリート台を含めた高さは約30m、像の全高18.78mと東洋一の規模を誇る。

なぜそんなに大きな像を作ってしまったかというと、弘法大師、つまり空海が享年62(満60歳)で入滅(死去)したため、62尺=18.78mとしたのだとか。1938(昭和13)年に開眼し、「三谷の弘法さん」の愛称で親しまれている。海の方を向いているので、新幹線からは後頭部しか見えないのが残念だ。

「ひょうたん島」も見えてくる

続いて見えてくるのは、三河湾に浮かぶ三河大島。蒲郡市の沖合3kmに浮かぶ無人島で、毎年7・8月のみ渡船と海水浴場が営業して海水浴や潮干狩りを楽しむ行楽客で賑わう。市街地から近い割に海がきれいで、生きている化石とも呼ばれる国の天然記念物、ナメクジウオが棲息していることでも知られる。昔ながらの瓦屋根の向こうに見える三河大島は、きれいなひょうたん形をしており、まるで昔一世を風靡したNHKの人形劇を見ているかのようだ。

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右の丸い森のような島が蒲郡竹島。これほど本土に近い位置にありながら独自の植生がある

三河大島の次に見える小さな森のような島は、蒲郡竹島。本土と400mほどしか離れておらず、橋で結ばれているが、独自の植生があることから島全体が国の天然記念物に指定されている。島の中央には、日本七弁財天のひとつである八百富神社があることから、近年は「パワースポット」として女性の人気も高い。

中京圏からの手軽な観光地として人気の蒲郡だが、東海道新幹線の車窓からも多くの見どころを楽しむことができる。どこか懐かしさを感じさせる景色が気に入ったら、三河安城や豊橋で下車して、ふらりと訪ねてみるのもいい。

これで、海とはお別れだ。東海道新幹線は北西に進路を取り、名古屋を目指す。今度はE席側に注目しよう。この辺りならではの「闘い」が見えてくる。

(写真は筆者撮影)

栗原 景 ジャーナリスト

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くりはら・かげり / Kageri Kurihara

1971年東京生まれ。出版社勤務を経て2001年独立。旅と鉄道、韓国をテーマに取材・執筆。著書に『新幹線の車窓から~東海道新幹線編』(メディアファクトリー)、『国鉄時代の貨物列車を知ろう』(実業之日本社)等。

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