浜名湖を後にした新幹線は、静岡県で最も西に位置する湖西市に入り、東京~新大阪間の中間点を通過する。湖西市は、静岡県有数の工業都市。間もなく左手、A席側に、自動車メーカーであるスズキの湖西工場が見えてくる。そのシンボルは、2基の巨大な「風車」だ。
これは、今から12年前の2004年1月に稼働を開始した風力発電装置。3億7000万円を投じて設置され、1基あたりの定格出力は750kWだ。発電された電気はすべて工場内で使用されており、年間の発電量は約170万kW。これは一般家庭約380世帯分の電気に相当する。
スズキは、この風力発電装置について、設置当時のリリースで「化石燃料等を使用しないため二酸化炭素や有害物質を排出しないクリーンな電力を生み出す。(中略)地球環境への対応に貢献できる」としている。環境問題に取り組む企業姿勢を示したものと言える。設置場所は発電効率から決められたというが、結果的に新幹線の名物車窓のひとつとなった。広告効果もかなり大きいだろう。
巨大風車が語る風力発電の難しさ
高さ75m、羽の長さ50mに及ぶ風力発電装置は、新幹線の車内から見てもかなり巨大だ。
しかし、この2基の風力発電によってまかなわれている電力は、湖西工場全体の消費電力の1%に過ぎない。仮に、工場で使用する電気をすべて風力発電でまかなおうとすれば、膨大な発電装置が必要になる。しかも、風まかせとなる風力発電はいつも必要なだけの発電量が得られるとは限らない。風力発電だけで事業用の電気をすべてまかなうことは難しい。
風力発電は太陽光発電と比較して規制が厳しい。風によって羽を回すためどうしても騒音が発生するうえ、鳥類の生態系に影響を及ぼす恐れもあり、環境影響調査が必要となる。
大規模太陽光発電(メガソーラー)が計画から1年程度で運用を開始できるのに対し、風力発電は最低でも5年はかかるという。
東海道新幹線の定番車窓として、おなじみの存在となったスズキの風力発電装置だが、同時に再生可能エネルギーの難しさも教えてくれている。
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