JR東日本特急から「自由席」が消えているワケ

「全指定席」化で車内改札などコスト高縮減へ

その上、特急券の車内発売には人手がかかる。私が実際に取材した列車として、東京21時45分発の銚子行き特急「あやめ3号」(特急区間は佐原まで。2015年3月ダイヤ改正で実質的に「しおさい」へ統合)の5両の自由席に対し、5人の車掌が乗務していた例を挙げる。時間帯からして退勤客が利用の中心だが車内発売は非常に多く、車掌の業務のほとんどを占めていた。特に千葉までの510円の特急券が次々に売れる。1万円札を出す人もいた。

しかし、こうした実状は、売上に対する人件費を考えると、「割に合っている」とは思えない。現代の企業における人件費の負担は大きい。これをいかに最少に抑え効率的に利益を上げるかが、企業経営上の至上命題であろう。JR東日本は公共交通機関であるのと同時に一部上場企業でもある。特急というサービスへの対価を回収するのに、人手がかかりすぎては本末転倒である。特急利用者が多い首都圏を抱えるJR東日本が出した答えが、全車指定席化ではないかと考える。

背景としては、インターネット予約、チケットレスサービス、指定券自動券売機の普及がある。これらにより座席を予約する際、窓口に立ち寄る必要もなくなった。

全席指定化の草分け「はやて」

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全車指定席の特急「スワローあかぎ」の案内板。通勤客を主な顧客層とした列車で平日のみ運転し、土休日は自由席主体の「あかぎ」として運転される(筆者撮影)

JR東日本が設定した全車指定席の昼行特急の例としては、1990年運転開始の「スーパービュー踊り子」や、1991年運転開始の「成田エクスプレス」があるが、観光や国際空港アクセスといった利用目的に特化した列車であり、従来通り、みどりの窓口で特急券を購入しなければならなかった。

2002年12月に東北新幹線が八戸まで延伸開業した際にデビューした最速列車「はやて」が、今日的な意味での全車指定席列車の草分けだろう。同時に、それまで自由席があった秋田新幹線「こまち」も全車指定席に変わっている。いずれも、当時のJR東日本の新幹線における最長距離列車でもある。

長距離旅行だと「座れない」という事態は避けたいため、もともと指定席志向は強い。これにJR東日本が応えた形である。また、需要予測から、多客期に適切な増発を行えば、自由席を設けなくても運び切れるとの目算もあったのだろう。

同年9月からJR東日本の新幹線は、特急券が自動改札機を通過したというデータが車掌の持つ端末に送られ、それを確認することで車内改札を省略するというシステムを導入した。この省力化、すなわち車掌業務の軽減が「はやて」「こまち」全車指定席化の前提条件となっている。「はやて」を受け継ぐ形で、2011年に運転を開始した「はやぶさ」、2015年運転開始の北陸新幹線「かがやき」も全車指定席制を踏襲した。

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