ソフトバンク「史上最高3.3兆円買収」の賭け

IoT時代を先取り、半導体設計会社を電撃取得

買収の目的は、これから来るであろうIoT(Internet of Things、モノのインターネット)時代の先取り。あらゆるモノがインターネットにつながる時代にアーム社の設計力が重要な役割を果たす、というのが孫社長の見立てだ。

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英国メディア向けのスライドのひとつ。ソフトバンクがこれまでも、主力事業を次々と変貌させてきたことをアピールしている

「シナジーはあるけれども、今すぐではない。長期的にはシナジーがある。囲碁にたとえれば、勝つのは相手の碁石のすぐ隣にばかり打つ人ではない。遠く離れたところに打った碁石が、50手先、100手先に威力を発揮する。ブロードバンドビジネスを買収したときにも『シナジーがない』と言われたが、私はその先にモバイルインターネット時代の到来を見ていた。今回もわかる人にはわかる、わからない人にはわからない。ほとんどの人はわからないだろうけれど、アーム社の事業がこれからのソフトバンクの主事業になっていく」(孫社長)。

孫社長が特に強調したのが、自動車向けとセキュリティだ。アーム社は自動車向けに「Cortexシリーズ」という自社設計の半導体を擁するが、自動車へのIoT搭載率はまだ低く、今後伸びる余地が大きい。また、アーム社には「TrustZone」と呼ぶセキュリティ技術もある。日本向け会見では特に、セキュリティについて孫社長は生々しく語った。

「ニケシュの置き土産」をさっそく活用

「IoTにハッキングすれば、自爆テロによらずとも、容易にテロを起こすことができる。世界中の自動車に一斉にブレーキをかけたり、世界中の飛行機を一斉に落としたりすることも可能だ。そうならないためにセキュリティは大事だ」(孫社長)。

また、「孫社長は陣頭指揮を執らないのか。アーム社の経営陣を替えるのか、孫社長は会長になるのか」と記者に聞かれ、「アーム社は建て直さなければならない企業ではない。ボーダフォンは沈みゆく船だったし、ブロードバンドはゼロからの出発だったので私が深く関与しただけ。アーム社の経営陣は有能なので替える必要はない。今の経営陣を中心に経営して欲しい。ディール終了後に私が経営陣に加わるかどうかは決めていないが、中長期の戦略をサポートしていきたい」と孫社長は回答した。

別れたばかりの孫社長とニケシュ・アローラ前副社長(右)。置き土産は早速活用されることになった(撮影:尾形文繁)

ただ、過去の買収案件では、最初から孫社長が深く関与しておけば良かったのに、と後から気付かされた案件も少なくない。最近では米スプリントがそうだ。最初は旧経営陣に任せたがうまくいかず、外部から経営者を引っ張ってきたほか、昨秋からは自らCNO(チーフ・ネットワーク・オフィサー)として経営の立て直しに腐心している。古くは1995年に買収した米出版社のジフ・デイビスや展示会のコムデックス、2004年に買収した日本テレコムもそうで、最初から経営陣を替えておけばよかったと孫社長が自ら公言したほどだ。

アリババ株、ガンホー株、スーパーセル株の売却で得る2兆円は、6月下旬に電撃退任したニケシュ・アローラ前副社長の置き土産である。「ニケシュとはビジョンを共有していた。さみしい思いが強くなっている」と孫社長は18日の会見でこぼした。孫社長はさっそく「ニケシュの置き土産」を使って、新たな時代への大きな布石を打ったと言えるのかもしれない。

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