「ソブリン」にもメス 進む市場浄化作戦

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離合集散で柔軟に変形 裏経済のネットワーク

 現代の仕手戦の特徴は不振企業やベンチャーを舞台に不可解なエクイティファイナンスが繰り返され、時には会社自体が手形乱発などで食いものにされる点だ。仕手筋はMSCB(下方修正条項付き転換社債)やMSワラント(下方修正条項付き新株予約権)といった新手の道具立てを使い、株価の乱高下に乗じてサヤを抜いていく。相場を演出するため、場当たり的なM&A話をブチ上げることも多い。そういった荒っぽい手口はかねてから問題視されてきた。

 だが、ここに来て監視委をはじめとする当局による包囲網がじわじわと狭まりつつある。旧南野建設株の相場操縦で10月に逮捕された西田晴夫被告もその一人だ。大手アパレル・ワールドの創業者・畑崎廣敏氏と親密で、昭和ゴム株の仕手戦などで知られる西田被告を、監視委は数年前からマーク。05年に別の仕手筋を逮捕したソキア株事件も当初のターゲットは西田被告だったとされる。

 このほかにも大盛工業をめぐる風説の流布事件で指名手配中だった金融ブローカーの大場武生被告が10月に逮捕、3月にはIT銘柄を多く手掛けた新興仕手筋の川上八巳被告も摘発されている。

 ただし、これら仕手筋も「裏経済ネットワーク」の一細胞にすぎない。現代仕手戦は、銘柄ごとに複数の仕手筋が離合集散する「プロジェクト方式」が主流だ。「大物」とされる西田被告にしても、旧南野建設株の前哨戦だったキムラタンでは“下請け”の一人。増資の取りまとめは別のブローカーが行っていた。NOVAが倒産直前に画策した大規模な新株予約権発行でもネットワークの存在は垣間見える。関係者によれば、引受先に登場したBVI籍の法人はもともと阪中氏が支配する「ハコ」だったが、西田被告と近い人物に名義貸しされていたのだという。

 ネットワークの有力な資金源には暴力団の影がちらつくが、過去の摘発例ではそこまで踏み込めていない。そこをたたかなければ、ネットワークは柔軟に形を変え、次なる獲物に襲いかかる。株式市場の浄化作戦が進んでいるのは確かだが、壊滅までの道のりはまだまだ遠い。

(書き手:高橋篤史 撮影:尾形文繁)

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