──ただ近年は、築地も元気がなくなったと。
冨岡:そうですね。私が働きだした1991年頃って、まだ雑多な雰囲気がありました。それに比べると整然としちゃったかなあ、人も少なくなった。確かに観光客はあふれ返ってますけど、以前は正真正銘の買出人でその倍くらい混雑してましたからね。年末なんか売り場の端から端まで歩くのに1時間かかった。
さいとう:「アメ横」状態……。
冨岡:あ、河岸ではその4文字は禁句!
さいとう:あ、そうだった。築地の品質を一緒にするな、と。
冨岡:河岸で「アメ横ならもっと安いわよ」なんて値切ろうものなら、マグロ包丁がキラリと光る(笑)。
本当に親しくならないと撮れない
──場内には絵になる場面や風景が至る所に転がっています。それでも撮影に4年かかったんですね。
さいとう:石畳とか店先とかなら5、6回通えば撮れちゃいます。でも本領はその後。それから先は本当に親しくならないと撮れない。掲載した中でいちばん苦労した写真はウナギをさばいている一枚。血が飛んでくるくらい、カメラのピントが合わなくなるくらい接近して撮った。そこまで近づくと注意されるんです。ウナギの血が目に入るとすごく痛いよって。そうやってそばで撮ってても邪魔にされなくなるのに、2年3年かかりましたね。いくら顔なじみの親しい店でも、撮らせてもらうときは店に入る前に必ずあいさつします。勝手に入ろうものなら空気がサッと変わる。口では言わなくても鋭い目線が飛ぶ。
──閉場まで半年を切りました。
さいとう:今のうちに行って楽しんでほしいですね。そしてできるだけ場内の仲卸店で買い物してほしい。基本的にキロ単位ですけど店によっては小分けしてくれます。何しろウマいですから。年月を経たあの築地市場の雰囲気を味わいながら買い物できるのが、やっぱりいい。
冨岡:文章を私の一人称でなく、読者の視点で読んでもらえるよう書いたので、河岸が懐かしくなったら、あるいは河岸を知らない人も、本を開けばいつでも河岸に来た気分になってもらえるかなと思います。さいとうさんはつかれたように写真を撮られ、私は自分のペースで好き勝手書かせてもらって、結果、タイムカプセルで築地の地に埋めてもらってもいいくらいの本になったかなと思います。豊洲に移って仕事をされる人、築地とともに去る人、皆さんに幸あれ、という気持ちがあらためて湧いてきますね。
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