なぜ日本では本物のエリートが育たないか?

著者インタビュー・福原正大氏に聞く

ただ、「詰め込み式」といった日本の教育がすべて悪いわけではない。そこで得た知識を土台に、プラスアルファの能力を身につける機会を増やしていけばよいのだが、日本の教育ではそこまで至らない。

――哲学や倫理観など、既存の学校教育でもなされているはずです。

高校で教えられている哲学や倫理は、驚くことにほとんどが「一つの答えを求めるもの」。センター試験科目に倫理があり、記憶科目になっている。本来は、どのように生きるべきか、真理とはどこにあるのか、といった生きていくためにもっとも大切な科目であるにも関わらずである。こうした生き方にも学生はありもしない一つの答えを求めることに慣れてしまうので、社会を自ら変えていける人が少なくなってなってしまっているのではないかと思う。

そして、日本の学校教育において、生徒は「答えは何ですか」と聞くし、「答えはこうだ」と答えるのが教師という固定観念が蔓延しているようだ。私がIGSで、「答えを私も知っているわけではないから、議論をしよう」といったら、最初は生徒に引かれてしまう。実際に、「答えのないものは教えられない」と教師から言われたこともある。ただ、学生は本来的に議論を欲しており、機会を与えると答えをない問題について非常に楽しそうに積極的に議論するようになる。

大学受験も、大量の穴埋め式や選択式の問題が多い。これらは機械的にその答えが出てくるようにすればよいため、単純な記憶力で十分だ。しかし、現実の社会では、記憶力がいいだけで解けてしまうような問題はない。現代社会で出現する複雑な問題にどう立ち向かうか。今の教育ではその糸口さえつかめないと言っても過言ではない。

――大学の現場では、海外の学生と比べ日本の学生は「質問もできない」という指摘が出始めてから、ずいぶんと経ちます。

あまりにも「答え」を求める教育を受けた影響だろう。しかも、「正しい」答えを求めるあまり、何も考えられない。ゆえに質問が出てこない。これが現状ではないだろうか。

――そうならないような教育とは、どんなものでしょうか。

前述した、世界で日本人が通用しない3つの理由を補うことをやればよいと考える。(1)答えは一つではないと知ること、(2)理論と枠組みを身につけること、(3)対話力を磨くこと、の3つだ。

――社会人の目から見ると、非常に当たり前のような気がします。

そう。だが、その当たり前と思われることができていないのも日本の現実だ。とはいえ、日本人の多くはすでに基礎となる語学力や計算力はある。それらを土台に、3つのポイントさえ意識し学習すれば、世界で戦える人材へパワーアップできると考える。

――書名にもつけられた「エリート」という言葉、福原さんはどう定義しますか。

日本ではどことなく否定的なイメージがある言葉だが、語源となったラテン語本来の意味は「神に選ばれし者たち」。一種の特殊能力を持った人材の集団であり、「いざとなれば損得を顧みず他人のために尽くすことのできる人たち」を指す。

現代のエリートとは、「システムを変える力」を持つ人を指すのではないだろうか。時代に合った新しいシステムを創造し、構築していく力。いわば革命家であり、起業家でもあるだろう。

だが、今の日本では、複雑な問題が出てきている。多くの日本人が既存のシステムでは無理が来ていることを知りつつも、システムを守ることばかりに汲々としている。

歴史を振り返れば、今の日本は明治維新前後の状況に似ているのではないだろうか。鎖国で井の中の蛙だった日本が世界と対等できるようになった。そんな力を生み出すのは学問だと最初に言ったのが「学問のすゝめ」を書いた福沢諭吉だった。日本に閉じこもって「日本はすごい」と言うだけでは、ますます世界から取り残されてしまう。そのすごさを言うのであれば、世界が納得する形で表現し示していく必要がある。そのために必要なのが新しい時代にふさわしい教育であり、エリートではないだろうか。

(著者略歴)福原正大 ふくはら・まさひろ 慶應義塾大学卒業後、東京銀行に入行。INSEADでMBAを取得。仏グランゼコールHECで国際金融修士号取得。筑波大学で経営学博士。世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズに転職、マネージングダイレクター、日本法人取締役を経る。2010年に未来のグローバルリーダーを育成する小中高生向けスクールIGSを設立。

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