都市化の質が課題、地方政府の「暴走」懸念 2013年の中国経済を読む

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以上をまとめれば、今後の都市化の重点は、すべての都市居住者に対する行政サービスの提供などソフトウエアの整備に置かれ、それを主軸に豊かで環境保護の行き届いた良質な都市を作り出し、都市での消費や投資の活性化を図ろうというのである。

ハードウエアの整備が先行してしまうリスクも

中央経済工作会議では、こうした思いが「都市化」に込められたものの、それを実現できるかどうか、まだよく見えないのが現状だ。

ソフトウエアの整備に力点が置かれるとしても、そのグランドデザインや改革の具体策の立案、さらにはその実行には長い時間がかかることが予想される。都市戸籍の保有者と農村戸籍の保有者間、中央政府と地方政府間の利害調整、環境と開発を巡る調整など、既得権益も絡む難しい調整が残されているからである。

こうした中、グランドデザインを描ききれないうちに、「都市化」推進というシグナルを受けて、各地方政府が「中央経済工作会議」で重点項目として取り上げている各種プロジェクトなどを実行に移してしまうことが懸念されている。とりわけ13年は地方政府の指導者の交代年であり、地方で新規事業が立ち上がりやすいとも言われている。

もしこのような行動を抑制できなければ、無駄なハコモノを大量に生み出すことにもなりかねない。ヒアリング調査によると、各地方の都市計画を合算すると、都市計画人口が20億人と総人口を超えてしまっているようである。野放図な都市化がもたらす経済的損失は決して無視できない。

新指導部が錯綜する利害関係を調整し、都市化へ向けたグランドデザインとその実行プランを早期に作成できるか。その成否が、新指導部のリーダーシップと改革への熱意の度合いを図る尺度となりそうだ。

鈴木 貴元 みずほ総合研究所上席主任研究員

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すずき たかもと

1992年早稲田大学政治経済学部卒。早稲田大学大学院社会科学研究科修了。浜銀総合研究所、日本経済研究センター、三和総合研究所を経て、05年からみずほ総合研究所、08年瑞穂実業銀行(中国)有限公司出向(上海駐在)、10年から現職。著書に『アジアのIT革命』(小社刊、共著)、『得する中国損する中国』(アスペクト)など。

 

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