アベノミクスは、国債市場の安定を崩すのか 市場動向を読む(債券・金利)

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今年度行われている17兆円の1年目の日銀乗換がもし仮に全額乗り換えられたら、来年度の日銀によるTBの直接引受額は一気に30兆円規模に膨らむことになるのである。

しかし、この手法の乱用は、少々の財政拡張では長期金利は上昇しないという政府の日銀依存体質を強める可能性があり、財政規律の緩みにつながる懸念が大きい。「マネタイゼ-ション」が歯止めないインフレをもたらす元凶であるという上述の見方からすれば、最も回避すべき政策手段の一つであると言えるだろう。日銀と財務省は共にその懸念を認識しているからこそ、過去においては再乗換を慣習化はさせず、慎重に扱ってきた経緯がある。

今年度補正と来年度当初予算いかんでは市場動揺

しかし、今後、輪番オペ増額も含めて政府の金融緩和圧力は日銀に国債購入を一段と拡大させて行くように促す可能性がある。それが新政権の公共投資拡大政策をさらに促すような構図となれば、長期的に見て非常に大きなリスクを日本のマクロ政策は抱え込むことになる。まさに、定義通りの「マネタイゼ-ション」が始まるのである。もし、政府が長期的に日本の財政規模を拡大させる政策を採っていこうというのであれば、逆に、日銀の国債購入政策は抑制的なものである必要があろう。

新政権によって行われる今年度補正と来年度当初の予算編成は、長期的な国債市場の安定構造を根底から崩してしまうリスクがあるという意味で、大いに注目せざるを得ない。

森田 長太郎 オールニッポン・アセットマネジメント執行役員/チーフストラテジスト、ウォールズ&ブリッジ代表

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もりた ちょうたろう / Chotaro Morita

慶応義塾大学経済学部卒業。日興リサーチセンター、日興ソロモン・スミス・バーニー証券、ドイツ証券、バークレイズ証券、SMBC日興証券などで30年以上にわたりマクロ経済、金融・財政政策、債券需給などを分析し、2023年10月から現職。グローバル経済、財政政策、金融政策の分析などマクロ的アプローチを行うことに特色がある。機関投資家から高い評価を得ている。著書に『日本のソブリンリスク 国債デフォルトリスクと投資戦略』(東洋経済新報社・共著、2011年)、『国債リスク 金利が上昇するとき』(東洋経済新報社、2014年)。

 

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