第3に、トランプが主張するイスラム教徒の移民制限は、一部の支持は得ているものの、あまりに無謀であり現実的ではない。
イスラム教徒は、すでに米国人口の約1%を占めている。宗教別にみれば、キリスト教徒が抜群に多いが、第2位のユダヤ教徒と第3位のイスラム教徒は僅差である。米国への移民数では、イスラム教徒が年間10万人に上っており、2030年には620万人に増加すると見込まれている。
もともと、イスラム教徒は共和党支持者が多かったが、9.11同時多発テロ以降共和党内でイスラム教徒に対する風当たりが強くなったためイスラム教徒は民主党支持に回るようになり、オバマ大統領の成立に際しては大多数のイスラム教徒が支持するに至った。したがって、共和党としては、今はイスラムの負の側面が目立っているが、将来は失われたイスラム教徒の支持を回復したいという気持ちがあるはずだ。
結論を急げば、イスラム教徒の移民だけを制限することは困難だ。米国は移民の国であり、移民については明確な政策がある。現在は、国別の枠のほか、家族関係、職業上の技術、人道的理由などが考慮され移民の受け入れが決定される。その中に宗教上の理由を持ち込む余地は皆無なはずである。つまり、ほかの宗教は構わずにイスラム教徒だけ制限することはそもそも法的にできないはずだ。許されるのは移民政策の範囲内に限られる。
政治的には、イスラム教徒を差別的に扱うことはそもそも移民政策の根幹を揺るがしかねないどころか、人種問題を惹起して米国のタブーに触れる恐れがある。米国では、移民問題について、移民が少ない日本では想像を絶するほど複雑な歴史と経験があり、米国は人種問題の爆発を防ぐため懸命の努力を行っている。だから、非白人のオバマ大統領が誕生できたのだ。また、日本では出身地を尋ねることはごく普通だが、米国では注意が必要だ。人種について間接的に質問していると取られる恐れがあるからである。
極端な発言が支持を受け続けるのは難しい
トランプは人種問題に絡む危険を顧みず、言いたい放題に発言しているような印象があるが、選挙戦での発言だということに留意する必要がある。トランプがいかに国民的人気があろうと、大統領になれば差別的な発言や行動はただちに大問題になる。つまり、選挙戦で吠えていたことはブーメランのように跳ね返ってくるのであり、少し長い視野で考えれば、常に過激発言をし続けるのは困難なはずだ。
総じて、今回の銃乱射事件でトランプの極端な発言は多くの支持を得ることになったが、それが長続きするかは疑問だ。
一方、クリントンも強い候補とはいえない。トランプを強く支持している低所得層や若者からはウォール街の金持ちを擁護するというイメージで見られている。クリントンのこの弱点は、民主党予備選で戦った相手のバーニー・サンダースとの比較でも指摘されていたことだ。
今回の銃乱射事件で振り子はトランプに有利な方向に大きく揺れたが、いずれ戻ってくるだろう。しかし、どのくらい戻るか。大統領本選までまだ数カ月の時間があり、その間にさらなる情勢変化が起こる可能性もあろう。事態はなお流動的だ。
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