熊本地震で被災した「南阿蘇鉄道」は蘇るか 象徴のアーチ橋も損傷、全線復旧に30億円超

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国鉄時代の高森線。C12形蒸気機関車が牽く列車が走る(筆者撮影)

かつての高森線時代、この鉄道は高森から宮崎県の高千穂を経て延岡までの延伸計画があり、すでに廃止となった「高千穂鉄道(旧国鉄高千穂線)」と結ぶため、高千穂~高森間ではトンネル、橋梁の工事も進められてきた。

ところが高森~高千穂間のトンネル掘削中に湧き水の異常出水事故が発生、この湧き水は高森と南阿蘇地区の上水道の水源を枯渇させるほどのダメージを与え、自衛隊が給水に出動する騒ぎになった。この出水事故が原因で高森~高千穂間の新線工事は断念。高森線が旧国鉄の廃止対象赤字ローカル線である第1次特定地方交通線として指定されたこともあって、悲願の九州横断鉄道は水の泡と消え去った。

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2012年に開業した「南阿蘇白川水源駅」(筆者撮影)

高森線を引き継ぎ、南阿蘇鉄道として発足してからは、トロッコ列車の運行や、日本一長い駅名「南阿蘇水の生まれる里白水高原」駅、名水百選「白川水源」へ5分で行ける駅として2012年に開業した「南阿蘇白川水源駅」の設置など、さまざまな工夫により南阿蘇の観光には欠かすことのできない鉄道となった。

地域を支える鉄路に復興支援を

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南阿蘇鉄道のトロッコ列車から眺める風景(筆者撮影)

旧国鉄の赤字ローカル線を引き継いだ第三セクター鉄道の多くは、ほとんどが苦しい経営を強いられているが、そのなかでも南阿蘇鉄道と同様、経営努力を重ね、観光資源として成功を収めている鉄道もある。

例えば旧国鉄矢島線を引き継ぎ、秋田県の羽後本荘~矢島間23kmを結ぶ由利高原鉄道は、新型車両の導入、「まごころ列車」として、秋田おばこ姿のアテンダントが1日1往復乗務するほか、アニメ、映画のロケ、テレビCMなどにも登場して話題作りをしている。

また、訓練費700万円を自己負担することで列車運転免許を取得でき運転士に採用するというプランの発表などで話題を呼んだ千葉県のいすみ鉄道は、先の運転士採用プランや、旧国鉄の気動車を国鉄塗装のまま再現して定期運行、車内では地元の食材によるレストランカー運行などの施策を次々と打ち出し、鉄道ファンはもとより観光客の集客に大きく貢献している。

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阿蘇山のカルデラの中を走る南阿蘇鉄道のディーゼルカー(筆者撮影)

この2社は、いずれも社長が外部から公募で選ばれた鉄道だ。そして、同様に公募社長による茨城県のひたちなか海浜鉄道、鳥取県の若桜鉄道を合わせた4社は合同で、南阿蘇鉄道を支援するための復興祈念切符を4月末から発売している。南阿蘇鉄道でも、復旧へ向けた義援金を募っている。

私が南阿蘇鉄道の復旧を強く願うのは、この鉄道が南阿蘇の生活のほとんどを支えている鉄道であるということだ。通学、お年寄りなどの交通弱者の足として、そしてこの風光明媚な路線が南阿蘇の観光を大きく支えてきた経緯からである。私はこの線を日本有数の「珠玉のローカル線」と呼んではばからない。

もう40年以上も高森線、南阿蘇鉄道のすばらしさに魅かれ取材してきている筆者としては、どうしても廃線だけはしたくない、必ず復興をと願うばかりである。すでに復興に向けた義援金などが寄せられているが、あまりにも膨大な費用に、ここは三陸鉄道の復興と同等の配慮が必要と強く訴えたい。

南 正時 鉄道写真家

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みなみ・まさとき / Masatoki Minami

1946年福井県生まれ。アニメーターの大塚康生氏の影響を受けて、蒸気機関車の撮影に魅了され、鉄道を撮り続ける。71年に独立。新聞や鉄道・旅行雑誌にて撮影・執筆を行う。

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