日本が幸せな国になるのに経済成長は必要か すでに成長を目指すステージは終わった
言い換えれば、日本は富裕国としてのステージに入ったのであり、緩やかなリセッションと緩やかなデフレに周期的に見舞われているとはいえ、個々の労働者の購買力という点から見れば豊かになる一方なのだ。
ジェン氏と同僚のジョアナ・フライア氏は、クライアント向けの書簡のなかで、「日本は経済成長する必要があるのか。私たちの答えはノーだ」と書いている。「実質GDP成長率で測定する場合、もし人口が減少しているのであれば、生活水準を改善するために日本が全体として長期的に成長する必要があるなどとは、とても考えられない」
また、1990年以来、日本の消費者物価上昇率は年間わずか0.3%であり、多くの国の中央銀行が掲げる2%の目標を大幅に下回っているが、大きな悪影響をもたらす自己強化型のデフレが定着したわけではない。
成長を前提としない予想は難しい
確かに、政府・日銀による景気対策・デフレ対策がなかったら何が起きていたかは分からない。また政府債務がGDP比で250%近い水準で推移しているなかで、将来的に低成長ないしゼロ成長ということになると、移行期に伴う大きな問題が生じる。何より、それだけの債務をどうやって返済するのかという問題がある。
成長が得られないことで動揺するのは、私たちの予想だけとは限らない。公共部門・企業部門では、計画策定から投資、雇用に至るまで、すべてが成長を前提としている。
シティグループで信用ストラテジストを務めるマット・キング氏は、パイが縮小すること、あるいは、期待するほどに拡大しないことの影響について楽観視していない。
「たとえば原油価格の下落(今は上昇しているが)に対する反応を考えてみよう。石油生産者と石油消費者のあいだの富の再分配になるはずだったが、実際にはそうはならなくなった」と彼はクライアント向けの書簡で書いている。「市場もグローバル経済も、価格の下落時よりも上昇時の方がはるかに幸福であることが分かる。同じことが、他の多くの分野にも当てはまる」