ハイパーインフレは本当にやってくるのか リフレ政策への大誤解

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まとめると、リフレ派の誤解の原因は、以下の四つのポイントを理解していないことにある。

第1に、日銀が直接コントロールできるのは、超短期金利であり、長期金利には影響を与えることが状況によって可能なだけで、インフレ率が上昇しているような局面では、それはかなり難しく、無理してインフレを起こした場合には、不可能となる。
第2に、実体経済において重要なのは、長期金利であり、これが上昇してしまうと景気には大きくマイナスだが、リフレはまさにそれを起こすことになる。

 第3に、長期金利を高騰を避けるために、国債を日銀が直接引き受けにせよ、市場買い入れにせよ、多くの投資家が売りに回ったときに行えば、それは投機家の圧力に屈することになる。これは、まさにソロスがイングランド銀行をポンド投機で打ち負かしたのと同じ状況である。

第4に、このときには、円安も急激に進行することになるが、いわゆる、債券安、為替安、株安のトリプル安になる。金融市場は混乱、崩壊し、このような状況では、実体経済においても投資をする主体はなく、資金は海外へ逃避、企業活動も移転する。

円安により輸出競争力が高まるどころか、原材料など必需品において、輸入インフレが起き、コスト高から、輸出競争力も低下する。したがって、実体経済も大きな打撃を受ける。

一方、このとき、ハイパーインフレは起きないということである。このとき起きるのは、資産市場における実物資産の資産インフレである。

実体経済の停滞から、国民の実質所得は大幅に低下するから、インフレは輸入インフレに限られ、経済全体としては、スタグフレーションが起きる。我が国においては、エネルギー、食料以外においては、輸入依存度が小さいから、アフリカの国やかつての社会主義からの移行経済、途上国の小国で起きるような、超高率の輸入インフレではなく、中程度の輸入インフレから実質所得の低下、不況になる。

付け加えれば、この議論と同じで、リフレという話になると、株価は多少、上昇する。それは、単に普通の金融緩和の拡大による、マイルドな実体経済の改善期待からの上昇の場合と、上述したようなリスクを織り込んだ名目資産価格の上昇の場合とあり、後者が起こるリスクは高く、この場合は、中期には、実体経済の悪化を見込んで、だんだん株価は下がってくることになる。これにも注意が必要だ。
 

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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