サブプライムローンがMMFにまで混入~各国中央銀行が大量資金供給した裏事情~
ECB(欧州中央銀行)、FRB(連邦準備制度理事会)が連日大量の短期資金供給に踏み切った背景の一つに、ABCP(asset backed commercial paper)市場の混乱があることがわかった。さらには、MMFなどのミューチュアル・ファンドにまで波及し始めたのだから穏やかではない
CP(コマーシャルペーパー)は信用力の高い企業が短期資金を調達するために発行する無担保割引約束手形だが、近年、金銭債権等を、特別目的会社のようなビークルに譲渡するか、あるいは担保として提供し、ビークルがこれを裏付け資産としてCPを発行するABCP(資産担保型コマーシャルペーパー)による調達が増えている。米国では市場規模2.2兆ドル(7月末)のCPのうち、半分以上がABCPによる調達になっている。
ところが、その裏付け資産のなかにサブプライムMBSが混じっているとして、市場の不安が高まった。不安は現実のものになった。カナダのコベントリーが14日、借り換え債が発行できなくなったことを発表した。
さらに、これはMMF(マネー・マーケット・ファンド)など流動性の高い安全な資産でしか運用されないとされているミューチュアル・ファンドにまで波及していることがわかった。先週破産申請した大手サブプライム・モーゲージ業者のアメリカン・ホーム・モーゲージ(AHM)のMBSが含まれるABCPの買い手に、パトナム・プレミア・インカム・トラストなどの大手のミューチュアル・ファンドの運用会社が含まれているというのだ。サブプライム・モーゲージという有毒物質はCDOやヘッジファンド、プライベートエクイティファンドだけでなく、短期金融市場や一般の個人投資家が購入するミューチュアル・ファンドにまで散布されているのだ。
危ういABCPの現状
通常、ABCPの裏付け資産は長期のものであり、一方、調達側は1ヵ月の転がしだ。長短の期間のミスマッチが起こる。多数雑多な資産の返済期間は、当然、全額返済を迫られるCPとは合致するはずがない。そこで通常、ABCPは、永遠にロールオーバーされることが前提になり、それができなければ、資金繰りはアウト。したがって、全額分の流動性補完枠(バックアップの緊急融資ライン)を高格付けの銀行(短期格付けがS&PでA-1、ムーディーズでP-1など)から提供されるのを原則としている。借り換えできないときには、与信枠が使われて、CPが返済される見込みになっている。CPが売れれば、その代金で、融資が返済される。発行不能であれば、融資はばらばらの資産で返済されるか、銀行により質権が行使されて、担保処分される。
今や銀行と証券の業務は事実上一体となっている。証券会社と化した銀行は、多くのSIV(structured investment vehicle)といわれるビークルを設けて、適格性の点で、市場で売れなくなって不要なガラクタ資産を裏付けにCPを発行している、との指摘が出始めた。しかも、オフバランス化で信用リスクは移転され、銀行勘定からは外されている。ABCPの発行体は、欧米の市場関係者から、銀行の廃棄物ゴミ捨て場とすら揶揄される有様になった。
通常の証券化であれば、それぞれの資産の種別ごとに、合理的にパフォーマンスを推定することが可能な資産のみを集めて証券化されるが、SIVには、何でもかんでも、放り込める。そのうえ、中身を自分で運用できるから、入れ換えもやりたい放題という。事実上の資産運用への継続関与があるから、本来は真性譲渡といえるかどうかも問題なのだが、会計上はオフバランスが認められることになってしまっている。条件はプログラム・マネージャーである金融機関のバックアップラインがあること。証券関係者によれば、それさえあれば、裏付け資産について、事実上適格基準はないし、開示も不要で、プログラム・マネージャーからはおおざっぱな月次報告があるだけだという。不安を掻き立てる制度的な原因がそこにある。バックアップラインが発動されなかったらどうなるのか。そうした不安が的中した。サブプライム関連で巨額な損失を出し、先日、政府系金融機関の支援を受けることになったドイツの中堅銀行IBKは、このバックアップラインがなかったというのだ。
銀行預金の代替ともいうべき使われ方をしているMMFなどのミューチュアル・ファンド。いつでも引き出しが可能な安全な方法で運用されているはずで、最高格付けを取得しているのに、その裏付け資産は不良資産かもしれない。ABCPがロールオーバーできず、かつ、バックアップラインが出ない場合、局部的に発生したたった5億ドルの資金ショートが、瞬く間に短期金融市場を混乱に巻き込む。CPは一日のデフォルトも認められない。そのため、中央銀行の緊急出動が必要になる。CP市場は無責任な銀行資産在庫管理制度の運用者たちに退場命令を出し始めたのだ。
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