新幹線の優位、本当に海外に伝わっているか 欧州型とは違う「衝突回避原則」で優位性示す

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パリ北駅に停車する高速列車「タリス」。ヨーロッパ型の高速鉄道は在来線乗り入れを前提としてネットワークを拡げてきた(写真:リュウタ / PIXTA)

当初から専用の路線を建設することを前提としている新幹線に対し、欧州型の高速鉄道システムは在来線に乗り入れ、従来からある駅やネットワークを共用することを前提に開発が進んできた。在来線と新幹線で線路の幅が異なる日本と違い、欧州の多くの国では基本的に在来線も高速鉄道も線路幅1435mmの標準軌を採用しているためだ。

近年高速鉄道の発展が目覚ましい中国でも、在来線と高速鉄道の線路幅は同様のため、在来線を改良しての高速化が行われている。一方、在来線が広軌(1668mm)のスペインでは、高速鉄道では1435mm軌間を採用しているため、比較的独立性の高いシステムとなっているなど、他国でも専用路線に近い形の高速鉄道は存在する。

今後、例えば従来の鉄道網が標準軌ではなかったり、未発達だったりする新興国に高速鉄道が建設される場合は、在来鉄道とは独立した専用路線のみで運行するケースが増える可能性が高い。その場合、他国のシステムを導入した場合でも、専用の軌道とATCシステムで安全運行を実現するという日本型の新幹線システムと似た形となることが考えられる。

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IHRAの宿利正史理事長

だが、宿利理事長は「専用軌道とATCに相当する信号システムがあれば確実なオペレーションができるわけではない」と語る。「もし似たようなものができたとしても、51年間死者ゼロの安全運行を行うことができるかどうかが問題だ。

最適に統合された新幹線システムと、オペレーションの水準には大きな差が出てくると思う」(宿利理事長)。新幹線の優位性はクラッシュアボイダンスの原則だけでなく、最適化されたシステム全体にあるという考えだ。

貨物と共用「望ましくはないが弱点ではない」

一方、先日開業した北海道新幹線では、青函トンネルとその付近で在来線貨物列車と新幹線が線路を共用しての運行が行われている。これは「クラッシュアボイダンス」の原則から外れてはいないのだろうか。

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北海道新幹線には貨物列車との共用走行区間がある(写真:ポパイ / PIXTA)

この問いに対し、宿利理事長は「確かに貨物列車と混在しているが、新幹線は専用のシステムで運行しているし、共用区間は貨物列車についても新幹線と同じシステムで運行している。

形態としては「新幹線と同じシステムで走る貨物を積んだ車両」になっている」と語る。その上で「望ましい形態ではないが、システムとして弱点があるとは思っていない」という。

高速鉄道計画は各国に存在し、特にいま注目を集めているのは、マレーシアのクアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道のプロジェクト。このほか、米テキサス州でも新幹線システムの導入を前提とした高速鉄道の計画が進む。

今後、日本の高速鉄道システムが海外展開を拡大するにあたって、新たな技術開発などは求められるだろうか。宿利理事長は「海外展開のための開発が特に必要だとは思わないが、現地に合わせたカスタマイズを行うための提案力などは、さらに経験を積む必要があるだろう」と話す。

安全性や定時性が世界から高く評価されつつも、一言で特徴を言い表すのは難しい部分もあった日本の新幹線。互換性を特徴とする欧州勢のキーワードである「インターオペラビリティ」(相互運用性)に対してIHRAが前面に押し出す「クラッシュアボイダンス」の原則が今後さらに浸透していくか、新幹線システムの普及に向けて注目される。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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