隈研吾がレストラン電車をデザインした理由 新国立競技場の設計者がこだわる"木の質感"

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秩父の四季などをイメージしたデザインの外観。写真の4号車は「あしがくぼの氷柱」を描いている(撮影:尾形文繋)

――外観デザインも手がけられていますが、こちらは水色をベースにした明るいイメージですね。

こんなふうに楽しくてかわいらしいデザインって、普通はあまりやらないわけですよ(笑)。もう少し、ミニマムにとかシンプルにというふうにいくんだけど。でも、この電車がミニマムなデザインだと、秩父の自然に負けちゃうような気がして。

青空に溶けていくみたいなイメージがありましたね。普通のいわゆるプロダクトデザインという世界でいうと、白とかシルバーとか、あるいはチャコールグレーとか。そういう色が今までのデザイナーの1番多く使う色なんですよ。空色は割と甘い色なので。でも、空に溶けていく甘さみたいのが、今回は一番合っているかなと思って。

秩父の自然の中にこういうかわいらしい列車が走っていくという、その風景自身がなんかほっとする、ある種の夢の風景みたいな感じがするんですね。夢の中で特別なかわいらしい電車が森の中を抜けていく、川のわきを走っていくみたいな。そういう夢をここで実現したいなあという感じですね。

これからの鉄道は「経験」が重要

――これまでの鉄道車両のデザインについてはどう感じていましたか。

基本的には鉄道車両というのは、今までは工業化社会の一種のインフラデザインで、まず機能を優先してデザインされていたと思うんですね。その機能というのは、やっぱり移動ですよね。

でも今、鉄道に乗る人って、逆に移動より経験のほうに重きを置くようになっていて、何か特別な経験が得られるからこの鉄道に乗るというふうに変わってきているわけですよね。例えば、鉄道車両の中で食事をするというのも、いろいろな試みが世界でされているわけですよね。単に移動としてではなく、外の特別な景色を見ながら特別な食べ物を食べられるという、そのコンビネーション自身が、鉄道でしか得られない体験だと。

――鉄道車両のデザインはこれからどのように発展すると思いますか。

今はコンパクトシティのように、公共交通機関でリッチな都市を作るというのが世界の流れですが、そのときに鉄道の果たす役割って、今までの何倍も重要になってくると思うんですね。そういう流れに鉄道も応えていけるだけのデザインとかソフトというのが必要になってきて。そういう意味で、今回はそれに応えるだけのデザインができたなと思っています。

車両の世界はこれからものすごく変わっていくと思いますね。建築の世界でも木を使えるようにとか、法律がどんどん変わっているので、車両の世界でも使える材料が増えてくると思う。空間としても、もっと柔らかな空間ができるようになってきて。そうすると、相乗効果で車両に関心が集まってくるから。そういういい循環が、これから車両の世界には起こりそうな予感がありますね。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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