隈研吾がレストラン電車をデザインした理由 新国立競技場の設計者がこだわる"木の質感"

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――今回の「52席の至福」は既存の車両のリメークですが、改造でデザインを実現するのは難しかったのではないですか。

僕らの目的は体験をデザインすることだから。車両のかたちをデザインするというのは、ある意味で車両を外から見るという見方じゃないですか。でも僕らは、車両の中から見るということを一番重要視したので、ならば今までの車両の改装で全然問題ないなと。

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木格子の天井が印象的な4号車の車内(撮影:尾形文繋)

――インテリアは木材を活かしたデザインですね。建築でも木材を多く取り入れたデザインをされていますが、今回の車両はどういった狙いがあるのでしょうか。

僕の子どもの頃って、木の電車ってけっこう走っていたんですよ。木の床の電車で、なんか油が染み込んだみたいな木(笑)。電車自身は鉄だけど、そこに木の空間があるということがとても新鮮で、そういう電車に乗ると、わくわくしたことを覚えているんです。

――すると、木材を活かしたインテリアには、木の電車に対する郷愁という面もあるんですね。

ありますね。座席なんかも木が使ってあったし、そういう電車の中に入ると、ある種タイムスリップする感じがあったので。それをもう一度取り戻したいと思ったんですね。

食堂車のわくわくと特別感を

――車内のデザインでは、車両ごとに異なる天井が特に印象的です。

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車内で提供されるメニューの一例(撮影:尾形文繋)

それぞれ天井にキャラクターをつけたいと思ったんですよ。鉄道車両は、一種のかまぼこ状の天井をしているわけですが、普通の建築だと天井はフラットなので、かまぼこ状の空間はなかなか作れないんですよ。車両の中で一番インパクトがあるのは天井デザインだと思ったので、天井からまずスタートしていったんです。

せっかくなら、それぞれの車両でキャラクターが違えば、車内を歩き回るのも楽しいじゃないですか。寸法は同じはずなのに、全く違う空間がそこにあるって、すごくわくわくすることなので。設計するほうは大変ですけど、でもとても楽しかったですね。

食堂車というもの自身が、僕はわくわくするんですよね。ヨーロッパでもけっこう鉄道で旅行するんですけど、ヨーロッパの食堂車って特別感があるんですよね。日本でも食堂車というとわくわくしていたんだけど、最近そういうものが消えちゃった感じがしていたので。変わっていく景色を見ながらものを食べられる、お酒を飲めるなんて、最高じゃないですか。ある意味で最高の贅沢。どんなレストランよりも贅沢な体験を与えてくれるので、そういう特別な空間にしたいなと思ったんですね。

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