『日本農業への正しい絶望法』を書いた神門善久氏(明治学院大学経済学部教授)に聞く
──農商工連携や6次産業化は特効薬ではないのですね。
むしろ補助金を引っ張り出すための口実に使われている部分が多い。商工会議所などが中心になってやるから、どうしても商工優先になる。農業は気候に左右されるので、安定的に供給できないケースが多々ある。工場の稼働率に合わせて物を作れといわれても、それは無理。帯広のしょうゆメーカーで、地元や十勝の大豆を使わないところがある。原料の品質や量に問題が起きたときに、地元や近隣への配慮が優先されて経営の足かせになりかねないからだ。
農業は商業や工業と論理が違う。大規模化がうまくいかない理由は根本的な勘違いにある。規模の経済は化石エネルギー利用なら通用する。ところが、農業のエネルギーは無料で降ってくる太陽光線。これをいかに上手に使うかがテクニックや生産性を決める。それに「土作りには田んぼで5年、畑で10年」かかる。腰を落ち着けた作業が必要だ。
──農家の担い手不足、高齢化にも「一家言あり」です。
耕作放棄地が多いことを人手不足に結び付けがちだが、その放棄地の半分は不在地主のもの。それがドミノ現象を招き、農地の2割は「土地持ち非農家」が持っている。その不在地主は意欲のある農家には貸さない。いざ転用となっても即応できないからだ。それが農家高齢化の数字のカサ上げにも結び付く。
──では、どうすれば。
今や日本の農業はGDP(国内総生産)に3兆円貢献するのに、4・6兆円の農業保護費をかけている。その打破には、まずあり方として、よい農産物を作ろうとする魂を持って取り組む技能集約型でなければならない。全国に点々といる戦後生まれの技能新名人のすばらしさを知らなすぎる。彼らは経験知をただ受け継いだ人たちではない。科学的知識を持ち、新品種や新農業資材にも対応する。まずその新名人の話をじっくり聴くことから始めたらどうか。
(聞き手・本誌:塚田紀史 撮影:今 祥雄 =週刊東洋経済2012年10月20日号)
ごうど・よしひさ
1962年島根県松江市生まれ。京都大学農学部卒業。京大農学研究科農林経済学博士後期課程中退。農学博士(京大)。独自のネットワークを駆使して農業の研究を続ける。著書に『日本の食と農』(サントリー学芸賞、日経BP・BizTech図書賞受賞)、『偽装農家』、『さよならニッポン農業』など。
『日本農業への正しい絶望法』 新潮新書 777円 237ページ
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