『日本農業への正しい絶望法』を書いた神門善久氏(明治学院大学経済学部教授)に聞く

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──「シブヤ米」が話題になりました。

シブヤとは、若者のファッション発信地の渋谷に由来する。「農ギャル」にまね事の農作業をさせて、採れたコメをその名で売り出す。「萌え米」「ギャル米」というのもあった。人気キャラクターにちなんだ「初音ミク米」が通常の約10倍の価格で売られている。ローマ法王に献上した「法王米」というのもそうだ。もてはやす人は、話題性があるときだけ寄ってきて、そうでなくなるとさっと引く。それに振り回されていたら、ひどいことになる。結局はコメ農業潰しだ。

──宣伝や演出は一時しのぎにすぎない?

一筋縄にはいかない。たとえば甘い梅干しというのがある。梅干しは食生活の洋風化で需要が増えない。農商工連携の「6次産業化」や直売所ブームに乗って、はちみつ漬けで販路を広げようとする。だが、地元の人に言わせると、これは梅農家潰しだと。当座はよく売れるが、それは本来の梅干しを買っているのではなくて、変わった甘い食べ物への興味にすぎない。話題性で買うだけだから、いずれ関心はほかの物に移っていく。キャンペーンを打ち続け、消費者対策に振り回されることになって、結局は梅農家にとっていいことではない。

──企業による農業進出が再生の助けになるともいわれます。

ある新規就農3年目の若者のところに、企業が、5000万円ものカネを出し最高級のハウスを建ててやる、と言ってきたという。うちの広告塔を担ってくれるだけでいいと。彼はちょうどじっくり腕を磨かなければいけない時期に当たるはずが、動植物の生理もまだよくわからないうちに、機械仕掛けのマニュアル型で動くことになる。その企業が5年先、10年先まで支援してくれるはずがない。そういうムード先行での手助けは本当にまずい。

──農業生産法人や植物工場にも問題が多いとあります。

零細農家の赤字よりも、大規模農家の赤字のほうが影響は深刻といえる。大規模農家、ハイテク農業や植物工場は多くがうまくいっていない。富山県黒部市のリーフという農業生産法人が倒産したのはいい例だ。それも1月に倒産。田植えは4~5月だから、100ヘクタールの田んぼが耕作放棄された。この放棄は翌年、翌々年もその耕作地に影響が及ぶ。また大規模植物工場が失敗して残骸をさらし、周辺地域の雰囲気を悪くしているものもある。

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