三菱商事と三井物産が総合商社でなくなる日 歴史的な損失をなぜ招いてしまったのか
総合商社は世界中の石油・天然ガス、鉄鉱石、非鉄金属などの権益を、数百億~数千億円で買いまくり、採掘し、電力会社や鉄鋼メーカーなどに販売した。それが日本の「失われた20年」においても、商社業界に巨利をもたらす源泉となった。
リーマンショックが起こったあとの世界同時不況期も、商社の旺盛な投資意欲は収まらなかった。欧米景気は沈んでも「中国など新興国の需要は依然として強い」と商社の多くは信じていたためだ。
リーマンショック直後に急落した資源価格はその後約3年にわたって回復を続けたこともあり、総合商社はここで判断を誤る。冒頭に述べたチリの銅鉱山権益だけでなく住友商事の鉄鉱石やシェール権益など、過去1~2年の投資損失で話題になった資源案件は、おおむねこの時期に仕込まれたものだ。
がらっと変わった業界地図
そして業界地図はがらりと変わった。2016年3月期は資源事業が強い三菱商事、三井物産が赤字に沈んだ一方で、相対的に資源が手薄だった伊藤忠商事が1位、丸紅が2位に立つ見込みだ。特に繊維や食料事業など「非資源ナンバーワン商社」を標榜してきた伊藤忠商事の躍進は際立っている。伊藤忠商事の岡藤正広社長は「あと10年は資源に期待できない。それを前提に経営しないと」と言い切る。
伊藤忠商事に続けとばかりに、他社でも非資源ビジネスの強化に躍起となる。三井物産は2011年に出資したアジアの大手病院グループIHHを基軸にヘルスケア事業に注力する。資源ビジネス拡大戦略が失敗に終わった住友商事は、もともと強みを持っていたメディア事業の強化に回帰する。丸紅も伝統的に強い電力ビジネスに再びアクセルを踏む。
構造転換はまったなしだ。総合商社が新しい成長戦略を策定し、それを実行し、新しいメシのタネを確立しなければならなくなった。
ここで各社に共通するのは、自社の弱い部門を選別し強い部門を伸ばす「選択と集中」の動きだ。「それぞれ強みが違うのに同じような分野に投資するが、弱小分野にいくら投資しても効果はない。総合商社は総花的な事業展開をやめるべき」という総合商社業態への根本的な批判は、アナリストなどから何度か投げられてきた。今回の歴史的損失を機に、商社もそこに舵を切り始めている。
今まで何度も「冬の時代」を経験しながら、柔軟に事業内容を変えて生き残ってきた総合商社。これから10年先に待つ商社の未来像は、ひょっとしたら「総合」商社の看板すらなくなっているかもしれない。
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