社会を作る楽しさを人々は忘れかけている--『社会を変えるには』を書いた小熊英二氏(慶応義塾大学総合政策学部教授)に聞く

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こういう怒りの対象になるものは、社会の構造によって違う。エジプトならムバラク体制、米国ならウォール街とワシントン、日本なら原発を支えている政官財の複合体が、「われわれをないがしろにしているもの」と見なされた。それに向かって社会運動が台頭する。

──その怒りの爆発が、「社会を変える」ことになるのですか。

それ自体はポピュリズムと紙一重だ。しかしそこで、自分で考え、自分で行動する習慣がつけば、それが第一歩になる。これまで、社長や政治家に「お任せ」だった人々が、流動性の高まりや経済の低迷などで、不満や不安を持つようになった。ところが、そこで「お任せ」の姿勢が変わらないと、「おまえが偉い人なのだから何とかしろ」というクレーマーにしかならない。自分で情報を集めて考え、自分で行動することで、新しく「社会を作る」ことができる。

「社会を作る」ことが「社会を変える」ことであり、旧来の共同体に代わる集団を作ることだといってもよい。強いリーダーに投票するだけで、あとは「お任せ」のポピュリズムより、自分でプラカードを作ってデモに参加したり、自分で運動を企画したりする人はずっとましだ。

──それを「楽しいこと」と表現しているのが印象的です。

「自分で社会を作る」ことは、本当は楽しいこと。今の人々は、この楽しさを忘れかけている。企業の販売戦略でも、消費者の手間を減らし、購入のハードルを低くし、多様な選択肢を提供する方向で努力する。ところが人間は、手間が減るほど「楽しさ」が減り、多様に選べるほど不満が高まるものなのだ。運動でも恋愛でも仕事でも、ハードルが高く、自分でやる手間が多いほうが、むしろ楽しかったりする。

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