独断!東京一「子育てしやすい街」はどこか 自然の豊かさや子育て支援以外の視点で判断

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今回、3つの動きを紹介したが、調布が「普通の人にも参加しやすい街」なのにはいくつか理由がある。

ひとつは、街の新陳代謝が活発かつ、新旧住民の交流があることだ。今回取材した3組の主催者たちは大半が街にとってはいわゆる新参者なのにもかかわらず、それに対して古くからの住民が反発したり、制限しようとするような動きはあまり聞かなかった。それは、現在の調布の街が比較的新しいからではないかと思う。その根拠はこの地に残る方言にある。たとえば仙川商店街では1987年以来、毎年夏に「おらほせんがわ夏祭り」というイベントを行っているのだが、この「おらほ」は東北弁で、「私の」「私たちの」という意味だ。

新旧住民がうまく共存

1970~1990年代のこの街には、各地から人が集まっており、方言も生きていた。近年もマンション建設などで新住民が流入しているほか、電気通信大学、桐朋学園大学、白百合女子大学など複数の大学があるためつねに若年層も入ってきている。こうした中、新旧住民がうまく共存しており、それが新参者にも鷹揚な雰囲気を作っているのではなかろうか。

もうひとつは街のサイズだ。調布市の人口は約22万人。今回取材した三者ともこの規模を動きやすいと評価する。たとえば長尾氏は「行政が近いところにいて、意思疎通が図りやすい。飲食店が多く、しかも集中して立地しているので、人が集まってコミュニケーションを取りやすい。ビジネスも、地域活性化も図りやすい規模だと思う」と話す。オフラインでつながれる人間関係は数が限られるが、この規模ならネットを通じて実際に合う関係を作りやすいのが強みだという。

唐品氏も「以前住んでいた恵比寿のような人の多い街で何かを変えたいとは思わないが、調布は誰のために、何を目指しているのかがはっきりせず、場所的にも都会でもなく、田舎でもないという中途半端なところがある。ここなら何かできるという規模感があり、だから動いてみようと思える」と話す。もっと大きな規模の自治体でも活動が生まれていることもあるが、自分が動くということで考えると、街の規模はあまり大きくないほうが良いのだろう。

確かに公共サービスの優れている自治体は使い勝手はいい。だが、自治体や周辺住民と一体になって街を作り上げていけるような街のほうが、長い目で見た場合、愛着が湧くのは間違いないだろう。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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