民主主義は「保育園落ちた」問題を解決するか "政治的弱者"をめぐる歴史と未来

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マディソンは民主主義を守るために、党派政治を抑制する法的な制度設計がなされる必要があることを強調しています。

インターネットは政治的弱者を変えるか

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ところが、このマディソンの見解を否定する人もいます。20世紀後半に活躍したアメリカの政治学者ロバート・ダールです。

ダールによれば、民主主義において、利益集団や政党(「中間的な存在」)が自由に活動できる制度が保証されていることが必要で、このような制度がなければ、民衆は政治に関わることができない、とされます。

ダールは著書『ポリアーキー』で以下のように言っています。

「政治権力はさまざまな利益を代表する複数の社会集団の間によって、影響され、共有されている」

個人の意志を、集団の媒介によって、実際の政治に反映させようとする政治活動こそが、現代の欧米や日本のような代議制民主主義の基本的な特徴のひとつだと言っているのです。

議会政治とともに、複数の利益集団や政党が政策の実現を巡って、多元的に存在し、自由で平等な不断の競争をすることによって、全体として公共の利益に近い政治が実現する、とダールは主張します。

ダールのいう「競争」の中では、「保育園落ちた」保護者たちは連帯を組み、政策の実現を求める強い集団を構成し、政治をコントロールしていくことが必要です。それができなければ、彼らは政治的な弱者として放置され続けることになります。

ただ、現実的に、「保育園落ちた」保護者たちが、政治「競争」の中に参加することは物心両面で、難しいと言わざるを得ません。

しかし、今はインターネットによって、政治的な弱者の発言が突如として、強大な影響力を持つことがあります。今回の「保育園落ちた」のブログ記事はその典型例です。都心部で孤立する個人をインターネットは連帯させることができます。彼らのような政治的な弱者の窮状が不特定多数に伝えられ、世論を動かし、政治を動かすことも可能です。

実際、世界ではネットを介して弱者たちが集まり、大きな革命を起こすといった例も見られはじめています。

インターネットという新しい時代のツールは、党派政治における強者と弱者の類型と力関係を溶解させ、マディソンの時代以来の民主主義の構造的な欠陥を修正していく可能性を持っているのかもしれません。

いずれにせよ、“一億総活躍社会を目指す”というスローガンを掲げ、人口を増やし少子高齢化社会の解消が急がれる日本政府にとって、人口増加と労働者数の増加に直結する“待機児童問題”の解決は大きな命題です。働きながら子どもを産み育てたい人々だけでなく、多数の利益につながるこの問題の速やかな解決が望まれるところです。

(構成:山岸美夕紀)

宇山 卓栄 著作家

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うやま・たくえい / Takuei Uyama

1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、著作家に。各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説。著書に『朝鮮属国史 中国が支配した2000年』、『韓国暴政史 「文在寅」現象を生む民族と社会』、『経済で読み解く世界史』(以上、扶桑社)、『民族で読み解く世界史』、『王室で読み解く世界史』(以上、日本実業出版社)、『世界史で読み解く天皇ブランド』(悟空出版)、『民族と文明で読み解く大アジア史』(講談社)など、その他著書多数。

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