民主主義は「保育園落ちた」問題を解決するか

"政治的弱者"をめぐる歴史と未来

 

「保育園落ちた」のブログ投稿者は明らかに政治的な弱者です。現在の日本の全年齢の人口分布の中で、子育て中の若い人口は少数派であり、育児や仕事で忙しいため、政治家を選挙などで支援する余裕などなく、政治との繋がりは稀薄です。

また、保育園に入ることができない“待機児童問題”というのは都市部に顕著です。そこでは、地域における人的、組織的な繋がりも弱く、人々はマンション居住者として孤立しています。必然的に、都市住民は、地域の総意を汲み行政や政治に対し彼らのニーズを発信していく力を持ちません。

政治的な弱者のニーズへの対応は、民主主義においては、後回しにされることが多々あります。政治的な弱者に対応したところで、政治家にとって、票にはつながらないからです。

もちろん、この保育園の受け入れ拡大に関して、政治・行政が何もしてこなかったわけではなく、ここ数年の間に受け入れ数は急増し、全国的に成果を上げていることを付言しておかねばなりません。政治・行政は力を入れてはいますが、都市部ではまだまだ追い付かず、待機児童の問題は解消されていないというのが現状です。

いずれにせよ、都市部で、保育園に入れない子どもと保護者は政治的に見捨てられたも同然です。見捨てられた彼らが政治的な弱者であったため、今まで大きな問題にされてきませんでした。

民主主義は「保育園落ちた」個人の権利を守るべきか

こうした政治的な弱者を見捨てることは民主主義の原則に反するということを強く主張した人がいます。アメリカ第4代大統領ジェームズ・マディソンです。マディソンは、合衆国憲法の制定を推進し、草案作成の中心メンバーとなり、そのため、「アメリカ合衆国憲法の父」と呼ばれます。

マディソンは、建国当初の合衆国の民主主義を守るには、多数派を構成する政治的な強者の専制から、個人や少数の権利を守ることが必要である、と主張しました。

政治的強者が集団や連帯を組み、党派をテコにして、政治に自分たちの意思を優先的に反映させようとする誘導型政治を、マディソンは党派政治として、批判しました。

マディソンは『ザ・フェデラリスト』の第10篇で以下のように言っています。

「党派間の争いの中で公共の利益が無視される。正義の原則や少数派の権利に沿ってではなく、利害を持つ圧倒的多数の優越的な力によって、あまりにも頻繁に政策が決定される」

個人の権利が放置されてしまうのは、多数派優位の党派政治を原理とする民主主義の構造的な欠陥です。マディソンはアメリカの建国当初の200年以上前から、民主主義がこのような「党派政治」に陥る危険性を常に孕んでいることを指摘していました。

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