青息吐息の“出版旧体制”、デジタル時代の覇権は誰の手に?《アマゾンの正体》
アマゾンが得意とする「予約販売」も、出版社に大きなメリットをもたらしている。今年最大のヒットとなりそうな村上春樹著の『1Q84』。新潮社は発売の1カ月前からアマゾンでの予約受付を開始。5月25日に、アマゾンが「予約1万冊突破」を知らせるプレスリリースを出したところ、新聞・テレビなどに取り上げられ、予約は一気にハネ上がった。
他のオンライン書店でも予約が伸び、これを見た新潮社は大増刷を決定。発売直後には欠品があったものの、素早く巻き返すことができた。「売れない本をたくさん刷りすぎる」「売れている本が欠品する」という需給のミスマッチを、アマゾンモデルは是正しつつある。
取次に代わって電通が雑誌配信の元締めに?
もちろん、アマゾンだけが“革命軍”ではない。体制側も改革を始めている。喫緊のテーマとして業界を挙げて叫ばれているのが、「返品率の引き下げ」だ。出版社主導による「責任販売制」など、さまざまな取り組みが盛り上がっている。
これらの取り組みは、「出版社」「取次」「書店」の3者の利益を同時に改善することを目標に掲げている。環境経営の見地からも、返品率の高さは大問題だ。返品率の改善は絶対に取り組まなければならないテーマであり、総論としてこれに反対する業界人はいない。
が、各論になるとなかなか本腰が入らない。大手出版各社のホンネは「取次の言うとおりに刷り部数を減らせば、販売機会損失につながる。市場縮小を加速することにもなる」というものだ。縮小するパイの分配をめぐっては、きれい事だけでは済まされなくなっている。