(第11回)<乙武洋匡さん・前編>僕だからこそ伝えられることがある

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●人と違うなら別の方法で貢献するという指導

 四年生までの先生が、こういう身体をしているにも関わらず、みんなと同じようにという教育をしてくれたのですが、五、六年の先生はその反対でした。身体が違うのだから、どうしてもできないことが当然出てくる。それは成長によってますます大きくなっていくこともあるだろうということで、その代わりに何か別の方法で、クラスに貢献したらいいんじゃないかという指導でした。
 たとえば、掃除。四年生までの先生は、僕のお尻がびしょぬれになっていても、みんなと同じようにぞうきんがけをさせていました。しかし、五、六年生の先生は「お前は掃除をしなくていい。その代わりパソコン、ワープロを使って、クラスの掲示物を作りなさい」と。それが掃除をやらない代わりに、僕ができるクラスへの貢献の仕方だとおっしゃいました。これは、すごく新しい、衝撃的な発想でした。僕の今の生き方にも大きな影響を及ぼしています。

 今後、教師になったら、他の先生よりもできないこと、迷惑をかけてしまうことは必ずあります。しかし、その代わりに、他の先生以上に僕に何かできることはないかと今、探しています。これはこの先生の影響だと思います。小学五年生といえば、身体の差異が出てくるときです。そんなときに、僕がフラストレーションをためずにいられたのは、この先生の指導方針によります。
 先生は、当時28、9歳でした。僕が今30歳なので、そのときの先生の年齢を上回っているということが信じられない(笑)。先生は本当に素晴らしく、全知全能であるというイメージがあった。でも今の自分はまだまだ人間的にも未熟なのです。あのとき自分よりも年下だった先生が当時の僕らを教えていたことを考えると、多分こんな僕でも子ども達からみれば偉大にみえ、先生のいうことは絶対だと思われているのでしょう。本当に自覚と責任をしっかり持っていかなければと思ってしまいます。

●人とは違う教育、僕に教えられること

 僕は他の先生と比べるとできないことが多いし、もしかしたら子どもに手伝ってもらわなければならない。どんなにがんばっても行き届かないことがでてきてしまうと思うのです。それならば、他の先生では与えられない、教えてあげられないことを深く感じて指導してあげようと思うのです。
 『五体不満足』という最初の本でもそうですし、これからの将来を通じてもそうですが、それぞれの違いを認めるというメッセージを伝えていきたいと思っています。これを伝えるのに、普通に手足がある人が言葉で伝えるのと、目で見て形が違う僕が言うのとでは明らかに違うと思います。もちろん言葉で伝えていきますが、いろんな手段を使って教師という職業をまっとうしようと思っています。
 子どもは、「うちの先生は手足がなかったり、車椅子に乗っていたり、他の先生とは顔や形がちがうけれども、でも立派にやってるんだな、僕らの先生としてがんばってくれているのだな」って思ってくれるかもしれない。そうなれば、クラスに偏見を持たれてしまう要素のある子がいたとしても、「僕らは、ただ違うだけ、当たり前なんだ」ということを、他の先生よりうまく伝えていけるのだと思います。これは、自分が教師になる上での使命として、胸に抱いておきたいと思っていることですね。

●チームスポーツは個性を持ち寄り結果を出す

 僕はスポーツが好きだったので、中学校ではバスケットボール部、高校ではアメリカンフットボール部に入っていました。中学校まではバスケットボール部の選手として入部して、ドリブルだけは必死に練習して、試合にも出させていただくことができました。しかし、さすがにアメリカンフットボール部では選手としてやるわけにはいかず、マネージャーとして、相手チームのデータを分析したりして、チームに参加していました。けれども、やっぱりできないフラストレーションというのは、毎日少しずつ蓄積されました。今振り返ると、そのときのスポーツに対する不完全燃焼がスポーツライターを選ばせた一つの所以になっているのかなと。

 でも、そんなフラストレーションをためてでも、そこにい続けた理由というのは、チームスポーツが好きだからです。
 チームスポーツの良さというのは、個性を持ち寄れる場というところです。もっといえば、持ち寄らなければ勝てないスポーツなのです。たとえば、アメリカンフットボールというと、身体の大きな人たちがぶつかり合うスポーツという印象がありますが、細くても肩が強くて冷静な状況判断ができればクォーターバック、足が速くて飛び込む勇気があればランニングバックと、身体と性格に合ったポジションというのが用意されているのです。それは野球でも、サッカーでも、ラグビーでも、どんなチームスポーツでも同じだと思うのです。身体、性格、能力がバラバラでも、それぞれの特徴を生かせたチームがやはり勝てるチームなのです。社会もまたそうであって欲しい。それぞれの良さというのは、それぞれ違うところにあります。その良さを持ち寄り、組織が良くなっていくというのが理想だと思っています。
 もし僕が担任を持って、クラスの子と接していくときは、やはりそういう学級作りをしていきたいと思います。
(取材:田畑則子 撮影:戸澤裕司 協力:中川美穂)

乙武洋匡<おとたけ・ひろただ>
大学在学中、自身の経験をユーモラスに綴った『五体不満足』(講談社)が多くの人々の共感を呼び、500万部を超す大ベストセラーに。
99年3月からの1年間、TBS系『ニュースの森』で、サブキャスターを務め、メディアという未知の世界での経験をまとめた『乙武レポート』(講談社)を出版。
大学卒業後は、スポーツライターとして活躍。2005年より明星大学の通信課程で学び、07年小学校教諭2種免許状取得。04月より東京都杉並区の小学校の教壇に立つ。http://sports.nifty.com/ototake/

●学校、子どもへの思いが満載、乙武さんの最新刊です
だから、僕は学校へ行く!』(講談社)



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