いまダイバーシティ経営にどう取り組むか--谷本寛治・一橋大学大学院商学研究科教授


 こういったことを考えるときにもう一つお話ししておきたいのは、先ほど申しましたように、制度を設けても、これを活用する人が少ないという会社があることです。休暇制度があるのに利用されていない状況がある場合に、休暇を取得しにくい理由をお聞きすると、「仲間に迷惑をかける」というような回答が多い。つまり、自分がその制度を取ると、ほかの人に仕事のしわ寄せが行ってしまうとか、制度を運用しろとトップは言っているのに、実際には直属の上司がなかなか理解を示してくれなかったりする。たとえば、育児休暇に代わって時短の制度を利用しようとしても、仕事量の調整をはじめとする具体的な支援や上司・仲間の理解がないままでは、自分が全部抱え込んで家で仕事をやることになりかねない。制度を利用する人が苦労してしまっては何の意味もないわけで、細かな具体的な手当てを講じなければならないのです。

肝心なのは、組織のみんながただ単に長く職場にいるということではなくて、生き生きと働ける職場づくりに向けて導入するいろいろな制度が本当に機能するよう、限られた資源でもなんとか調整して仕組みとして動かしていくようにすることです。また、そういったいろいろな悩みをきちっと組織の中で発言できるコミュニケーションのよさ、風通しのよさというものがないと、部署ごとに解釈が違ってしまったりして、トップのイメージしていることが現場では全然機能しない事態に陥ったりもします。

最後に、ダイバーシティと言葉で言うのは非常に簡単なんですが、多様な価値観、多様な考え方を本当に活かす経営というのは勇気の要ることだと思います。特に管理職の方々にとっては、「これまでと違う発想を、この意見を取り込んでいって本当に大丈夫なのか」とか、大きな舵取りをしようとする際に、「本当にみんながこっちを向いてくれるだろうか」ということが少なからずあるでしょう。しかし、実際に新しい制度が動くためには、チャンスを与えるということ、なおかつフェアに評価・処遇することが必要であり、それを組織としてきちんと支えることがポイントになってくる。そして、こうした取り組みが組織の生産性なり競争力の向上にも寄与して、最終的に企業の価値、評価ということにつながっていくことになると思っております。

限られた時間ですので、ダイバーシティ経営の大きな方向性と、「ダイバーシティ経営大賞」が考えているベースになるところについてお話しさせていただきました。具体的な話につきましては、この後のパネルディスカッションの中で議論をしていければと思っております。(了)

※パネルディスカッションの模様はこちら

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