新幹線の「トロリ線」張り替え作業に密着した 安全のかなめ「架線交換」を初めて昼間に取材

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トロリ線を固定する「圧縮管」。中にトロリ線を入れ、100トンの力をかけて固定するという
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新しいトロリ線への切り替え作業

この作業が終わると、いよいよ新しいトロリ線への切り替えに入る。今回は行き止まり側を「圧縮管」と呼ばれる金具で架線の終端部に固定し、もう片方を「ダブルイヤー」と呼ばれる金具で隣の区間のトロリ線と接続する。

圧縮管はパイプ状の部品で、その中にトロリ線を入れて固定するが、溶接などではなく100トンの力をかけてその名の通り圧縮する。管はトロリ線と同じ銅でできているため、強い圧力をかけると両者が一体化するのだという。

取り外された古いトロリ線は、今度は新しいトロリ線を巻いていたドラムに「延線車」を走らせながら巻き取っていく。輝きのある新しいトロリ線と対照的に、古い10円玉のような色になった元のトロリ線は、パンタグラフと接する部分が平らになっている。3年の間にこれだけ摩耗するのだ。

トロリ線の寿命が延びたワケ

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交換した古いトロリ線。10円玉のような色合いだ

トロリ線の寿命は、昔と比べて長くなっているという。その理由の一つは列車のパンタグラフが減ったことだ。

かつての0系は、16両編成で8つのパンタグラフを搭載していたが、現在のN700系は16両で2基しか積んでいない。磨耗しやすいのはパンタグラフと接する部分のため、数が減ったことでトロリ線の寿命は延びたという。

寿命が延びたもう一つの理由としては、工事の精度が高くなったことも挙げられる。トロリ線の位置は地上から5mの高さだが「10㎝低いだけでも磨耗の具合は変わる」。近年は施工の精度が高くなり、高さが一定に保たれるようになったため、以前よりも磨耗しにくくなっているのだ。

昨年は首都圏や関西の在来線で断線が発生し、電車が長時間ストップするなど、どちらかというとトラブルで注目を集めることが多い架線。新幹線でも最も注目を集めるのは車両、次いで線路といったところで、架線がクローズアップされることはあまりない。

だが、高速鉄道のスピードアップや高速での安定走行には架線の高い技術が必要不可欠で、架線とパンタグラフが安定した接触を保てるかどうかが速度の限界を決めると言われるほど重要な部分だ。新幹線システムのハイレベルな安全・安定性を実現している大きな要素である架線。その安全は、深夜などに人知れず高所作業を行う人々の手によって維持されているのだ。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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