ドル円は購買力平価の100〜105円めざす 「期待」でなく「不安」を煽ったマイナス金利

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だが、2016年4月でQQE導入から丸3年を迎える。消費者物価指数(CPI、総合)は昨年12月時点で前年比プラス0.2%であり、食料・エネルギーを除くコアコアベースで見てもプラス0.8%にとどまるなど、いっこうに「2%」の兆しは見えない。

だからこそ追加緩和によって名目金利を押し下げ、インフレ期待を煽るのだ、というのが日銀の主張だろう。そうやって実質金利(名目金利-インフレ率)を低下させることで消費・投資意欲を刺激する、その結果として需給ギャップは縮小して現実の物価を押し上げるという理屈だ。

しかし、そのための「切り札」と思われたマイナス金利への世論の反応は芳しくなく、インフレ期待が煽られているような様子も確認できず、個人預金にチャージがかかるわけではないので、預金から消費・投資へシフトする動きが加速する動きもない。本当に物価の押し上げが進むのかは、にわかには信じられない。

購買力平価への回帰めざす?

そこで、「物価が上がらない」という前提に立つのであれば、「これから物価が上がってくるから問題ない」との理屈で、購買力平価を大きく外れて進んできた円安相場の持続性にも疑念が持たれる。今、企業物価ベースの購買力平価は1ドル=約100円、OECDや世界銀行の算出する購買力平価は約105円といった水準にある。

なお、1ドル=110~115円のレンジは2014年10月31日のハロウィン緩和後、一瞬にして突破し、10月31日から約2週間しか取引されていない。しかも、各種物価を用いた購買力平価を算出しても、110~115円のレンジには目ぼしい節目が存在しない。1ドル=110~115円のレンジでは、さしたる攻防もなく、市場が思っているよりも早くに1ドル=110円割れの展開になるかもしれない。

事実、今週の相場つきを見ると、115円を割れてから113円に至るまでは非常に速かった。この勢いをもって110円を割り込み、購買力平価めがけて調整する展開は十分考えられる。

筆者は折に触れて購買力平価からの乖離が行き過ぎていることに懸念を示してきたが(「2016年が5年ぶりの円高ドル安になる理由」)、市場の中には「購買力平価などは市場予測の世界では役に立たない」と切って捨てる向きもある。しかし、こうして急落が始まると、今までさして購買力平価に注目してこなかった向きがこれを取り沙汰し始める。本当に役に立たないかどうかはこれから分かるだろう。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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