ドル円は購買力平価の100〜105円めざす 「期待」でなく「不安」を煽ったマイナス金利

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1月29日の追加緩和決定は、同日に発表された『展望レポート』によれば、「企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延し、物価の基調に悪影響が及ぶリスクが増大」していることに対する措置とされており、要するに心理面の下支えを狙ったものである。ちなみに、2014年10月31日のハロウィン緩和も同様のロジックだった。

しかし、少なくとも今の世の中の受け止め方は「マイナス金利は恐ろしいもの」というイメージが先行しているようで、むしろ不安を煽ってしまっている可能性すら感じられる。

そもそも、今回のマイナス金利政策によって「一足飛びに個人預金にチャージが掛かるような事態にはならない」ことを解説するためには、三層化された当座預金の構造や限界費用と平均費用の違い、今後の残高推移に対する見込みなどについて理解してもらう必要がある。

しかし、専門家ですら直観的な理解に時間がかかる今回の枠組みについて、国民一般の理解を得るには絶望的な難しさがある。「本当の意味のマイナス金利ではないのだからメディアは不安を煽り過ぎ」との論評も一部で見かけるが、世論の理解度や受け止め方も斟酌した上での「期待に働きかける」政策だったはずである。

「マネーの量を2倍にして2年で物価を2%にする」という「量的・質的金融緩和」(QQE)導入当初の圧倒的な分かりやすさと比べれば(その政策が正しいかどうかは別として)、今回の「マイナス金利付き質的・量的緩和」(QQEN:QQE with a Negative Interest Rate)は複雑すぎて、「期待」への訴求力が弱い。どういった経済主体へ向けて前向きな効果を発揮すると想定したのか、今一つ見えてこない。「期待への働きかけ」によって消費・投資意欲を刺激するという本来的の政策波及ルートはもはや忘却の彼方になっていないだろうか。

インフレ期待不発で、購買力平価がよみがえる

「期待への働きかけ」が機能不全に陥っていることは為替相場を予測するうえでも重要である。絶対的なフェアバリューの存在しない為替相場において、数少ない信頼に足る理論が購買力平価である。そもそも1990年以降のドル円相場は歴史的に企業物価(PPI)ベースの購買力平価(PPP)を上限に推移してきた。しかし、QQEを中心としてアベノミクスが本格的に取り沙汰された2013年以降のドル円相場は、この上限を突き破り、歴史的にはほとんど経験したことが無いようなドル高円安水準で高止まりしてきた。

この現象について、リフレ志向の強い向きからは「急激な円安はインフレ期待を先回りして織り込んでいるため、過去の経験則は通用しない」との解説が聞かれた。これは要するに「これから物価が上がり、購買力平価のほうが円安になってくるから問題ない」という理屈である。

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