私達は本当に銀行にお金を「預けて」いるのか 「マイナス金利」実施で考える"金利"の意味

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当然、銀行にとってみれば融資先の多くが倒産したり、返済が滞ったりすると銀行自身の財務の健全性が損なわれ、最悪の場合には銀行自体が破たんすることもあり得ます。現に1990年代の後半には、そうやって破綻した銀行もありました。

これがもし“預けている”のであれば、破綻しても預けた人にとってまったく影響はありません。たとえば銀行の貸金庫に100万円の札束を預けていた場合、仮にその銀行がつぶれても、貸金庫の鍵を持って銀行に出かけて行き、金庫の中から札束を家に持って帰ってくれば済みます。

でも預金の場合はそうはいきません。一定金額までは預金保険機構によって保護されますが、その金額を超えた場合は、ひょっとしたら戻ってこないかもしれません。

おカネを貸しているのだから、その先が潰れたらおカネは戻ってこないかもしれないというのは当たり前のことです。銀行が融資する場合は、当然融資先によって金利が異なりますが、これはある意味ではリスクプレミアムと言っていいでしょう。

資産運用理論においては、前提として預金や債券は無リスク資産とされますが、それはリターンのブレがないという意味であって、おカネを貸して戻ってこないリスクは、程度の差はあっても必ず存在します。金利というのは、そういうリスクの対価であるとも言えるのです。

マイナス金利はやはり異常なこと

このように金利の本来の意味と性格を考えると、マイナス金利というのは実に不思議なものであることに気がつきます。これを「預かり料」と考えると納得できますが、本来の金利の意味、すなわち「おカネの使用料」であったり、「リスクの対価」であったりというふうに考えると、貸したほうがおカネを払わなければならないというのは、明らかにおかしなロジックです。

もちろん日本銀行の当座預金というのは、もともと金利がつきません。なぜなら日銀の当座預金というのは、金融機関がほかの金融機関や日銀、あるいは国と取引を行う場合の決済手段であり、一般銀行が個人や銀行に支払う現金通貨の支払い準備という性格を持っているからです。

そういう意味では、マイナス金利は当座預金口座の使用料と考えられないこともありませんが、このマイナス金利が一般銀行に広がっていくということになると、やはり異常なことであると考えたほうがいいでしょう。

近年、超低金利によって金融政策の効果がなくなりつつあると言われていますが、この数年の間に繰り出されてきた「量的緩和」「リスク資産の買入れ」といった金融政策に加えて、今回のマイナス金利は、恐らく何らかのインパクトを与えるものではないかと思います。

それがいい結果になるか悪い結果になるか。金利というものの本質をあらためて考えながら、じっくり様子を見ていきたいと思います。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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