フェラーリの「独立」は何を意味しているのか フィアットへ下克上、自由にはリスクが伴う

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フェラーリブランドを印象的なものにしている赤と黄色のエンブレム

マルキオンネはFCAの傘下にありながら、投資資金不足で低迷していたマセラティ、アルファロメオの再建には資金調達が急務であり、フェラーリの上場プランを速やかに進行すべしというスタンスだった。

フィアットがクライスラーを飲み込んで成立したFCAはジープ・ブランドを中心としてクライスラー部門の好調さはあるものの、本家フィアットグループ内の各ブランドの売り上げは伸び悩んでいる。

トップのVWとは雲泥の差

2015年の欧州における販売は87万台で7位を記録したが、トップであるVWグループの350万台規模とは雲泥の差だ。量販を期待されるアルファロメオやランチアの両ブランドは大きく落ち込んでいるし、フィアットブランドは「500」の好調な販売はあるものの、このモデルは販売開始からすでに9年目を迎えている。資金不足から各モデルの新規開発が滞りラインナップは歯抜け状態であることは一目瞭然だ。

FCAを指揮するマルキオンネは「今や廉価な小型モデルを経営の柱とする時代ではない」という判断から、グループ内のラグジュアリーカージャンルであるマセラティに集中投資を行い年間7000台レベルの生産台数を2018年までに同7万5000台に引き上げるという計画を進めている。

アルファロメオも同様に年間6万台そこそこの現状を同40万台レベルまで持ち上げるという荒治療を行っている。本来なら5年はかかるプラットフォームからの新車開発を2年で完成させるという計画で進めている新型車「ジュリア」への投資も莫大で、FCAの資金繰りはかなり厳しいといわれている。

つまりフェラーリの上場で得た資金はマルキオンネが発表したFCA内のマセラティ、アルファロメオ、ジープのブランド力アップのために計画されている500億ユーロともいわれている投資へと廻される。これはまさに、フェラーリの企業価値を「当てにした」資金調達であり、まさに大のFCA(元フィアット)を相手にしたフェラーリの下剋上だ。

ウォール街へとデビューしたフェラーリ

今回の上場で一般投資家へ割り当てられたのは約10%であり、その割り当て分の市場における動向を見て今後の戦略が定められるのだろう。ただ、その大部分の株式はFCAの株主へと割り当てられることになっており、筆頭株主は、フィアット創始家のアニエッリ・ファミリーだ。FCAの体制が現状を維持する限り、フェラーリのマネージメントは現実的に大きく変化することはないかもしれない。しかし、よりアニエッリ・ファミリーの直接的影響力が強くなり、その信任を受けたマルキオンネの発言力も強まるのは間違いない。

これでフィアット(FCA)の創始ファミリーであるアニエッリ家出身のジャンニ・アニエッリの加護の元で手腕を振るっていたモンテゼーモロと現ジェネレーションのアニエッリ家(ジョン・エルカーン=ジャンニの孫)に支持されるマルキオンネの闘いは決着した。

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