フェラーリの「独立」は何を意味しているのか フィアットへ下克上、自由にはリスクが伴う

拡大
縮小
長年会長を務めてきたモンテゼーモロと、フィアット社のジョン・エルカーン、現在会長を務めるマルキオンネ(写真左から)

時計の針をフェラーリの上場・独立計画が発表される直前の2014年9月10日に戻そう。

その日、フェラーリの本社があるイタリアのマラネッロで記者会見に臨んだのが、FCAのCEOであるセルジオ・マルキオンネとフェラーリ会長でFCA取締役を務めるルカ・ディ・モンテゼーモロだ。

「フェラーリはFCAグループのウォール街における資金調達に重要な役割を持つことになります。これはひとつの時代の終わりであり、1970年代から故エンツォ・フェラーリのそばで過ごした23年間は私にとって忘れられないものです。フェラーリという世界最高の会社の更なる成功を願っています」。モンテゼーモロはこうコメントを残し、この日でフェラーリを去った。

経営難のフェラーリを支えたモンテゼーモロ

フェラーリの創業者、エンツェオ・フェラーリ(1898-1988)

フェラーリは1960年代にレース活動を続けるための資金源となるロードカー部門の経営が傾き、社の存続の危機とまでいわれたところをフィアット(現FCA)=アニエッリ家の傘下となり、大々的に経営の立て直しが行われた。

フィアット会長であるジャンニ・アニエッリのバックアップの元、若きモンテゼーモロがF1のマネージメントに投入され、大改革とともに黄金期を迎えた。エンツォ・フェラーリの没後はロードカー部門を含むすべてのマネージメントを受け持つ。

フェラーリの2013年業績は売上高23億ユーロ、最終利益でも2億4600万ユーロの増収増益と絶好調、年間の総生産台数は6922台と発表されている。在任期間に売上高を10倍、販売台数を3倍にし、世界で最強のスーパーカーブランドを築き上げたのがモンテゼーモロだった。

そのモンテゼーモロは、中国市場の急激な拡大がフェラーリのブランド・ポリシーにそぐわないこと、そして、それに伴う総生産数の急増はフェラーリの希少性を脅かすものである、というかなり強気の発言をしていた。

ただ、この発言は一般的な上場企業であればなかなか許されないことだ。目先の売り上げが最重視され、株主利益の最大化が最も問われる現在、株主利益を損なうとも追求されかねない。これはフェラーリがフィアット=アニエッリ家の庇護の元、非上場企業として存在したからに他ならない。

今や、資金調達の問題さえなければ、独自の経営路線を貫き通すため、上場を廃止、もしくは頑なに拒む経営者も少なくない。こうしたモンテゼーモロの長中期的ともいえるフェラーリブランド戦略に対して、対抗していたのがFCA内で勢力を伸ばしていたマルキオンネだ。

次ページマルキオンネの経営スタンスは?
関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT