ストレス耐性のカギは「体との対話力」にある 体の変化に敏感な人はストレスに強い
そこでハースたちはまず、アドベンチャーレース(自然の中に設定された難コースをチームで競争するスポーツ)の選手と、軍でも精鋭の証である特殊部隊の兵士たちを対象に実験を行った。
極端な肉体的・感情的要求に直面しても、すぐに正常な状態に立ち直る能力を、彼らはどのやって身につけるのか。それを知るために、ハースらは被験者たちにフェースマスクを着けて、脳検査装置に横になってもらった。研究者がボタンを押すと、マスクが閉じて呼吸がしにくくなる。つまり脳と体の両方にとって、非常にストレスの大きな状況が生まれる。
実験開始後すぐに、被験者の脳の活動に共通するパターンが見つかった。マスクが閉じることを感じ取ると、彼らの脳内では、体からのシグナル(心拍数や呼吸の変化など)を受け取り処理する領域の活動が非常に活発になった。しかしその領域が、体の興奮を高める領域に向けて発する信号は、かなりわずかだった。
つまり極端な状況に対処する訓練を受けている人たちの脳は、体がパニック状態に陥り始めるのを見つめているが、それに対する反応を抑制していた。だからストレスを経験しても、過剰反応せず、身体的にも精神的にも立ち直りが早かった。
もちろん彼らは例外的な存在だ。たいていの人は、トップクラスの運動選手や兵士のような訓練を受けていない。そこでハースらは、48人の健康な成人男女を対象にした実験も行った。
体の変化をすばやく見つける
まず、被験者の感情的・身体的レジリエンスを測定する標準的なアンケートを実施。その結果に基づき、被験者をレジリエンスが高い人、平均的な人、低い人の3つのグループに分けた。次に、最初の実験で使ったのと同じタイプのマスクを48人に着けてもらい、一時的に呼吸ができなくなる瞬間を断続的に経験してもらった。
アンケート調査の結果、非常にレジリエンスが高いと判定された人の脳は、特殊部隊の兵士たちと似たような反応を見せた。中程度のレジリエンスと判定された人たちの脳も、程度は低いが、同じような反応を示した。