中国経済は、短期中立、中長期では悲観?(下)《若手記者・スタンフォード留学記 34》

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「安い中国」の終わり

2つ目の高齢化によるインパクトは、経済成長率への影響です。

そもそも、生産面から見ると、経済成長を生み出す要因は、(1)「労働の投入(労働人口の増加など)」、(2)「資本の投入(投資の増加など)」、(3)「TFPの上昇(TFPはTotal Factor Productivityの略で日本語では全要素生産性。新技術による生産性の上昇など、労働力、資本の投入以外のすべての要素を含む)」の3つに分けることができます。

中国の経済成長要因については、いろんな試算がありますが、UBS証券のジョナサン・アンダーソン氏は「歴史的に、中国の経済成長は、約6分の1が労働力の拡大、約6分の2が資本の拡大、そして、約6分の3がTFPの上昇から生まれている」と推計しています。(出所:Minxin Pei and Jonathan Anderson, ”The Color of China”, The National Interest, March 3, 2009)

つまり、労働人口が頭打ちする2015年以降、それまでと同じ成長率を維持するためには、投資の増加や生産性アップで、約6分の1の穴を埋めなければならないわけです。

もちろん、労働人口の減少はマイナスばかりではありません。失業者増大のリスクが減るというメリットがありますし、「安い労働力」に頼らない産業へとシフトが進むきっかけになるかもしれません。

ただ、日本のように、定年を延長するという方法はあまり効果的でないでしょう。というのも、中国はサービス業が発達しておらず、雇用が製造業、建設業など体力が必要な仕事に偏っているため、高齢者を雇うニーズが高くないからです。

農村の若い労働力がとめどなく都市に流入し、人件費の高騰を抑え、外資企業の投資を呼び込み、世界の工場として君臨する--中国の奇跡の成長を支えたこのビジネスモデルの寿命は、もう長くはないでしょう。一刻も早く、より付加価値の高い分野へとステップアップしていない限り、中国にあるより多くの工場が、ベトナム、インドなど賃金の安い国へ流れることになるでしょう。

3つ目に、高齢化は貯蓄の減少を呼び込みます。

経済学の理論の一つに、”ライフサイクル仮説”というものがあります。この理論の中身は、「人は若いころにお金をためて(貯蓄率プラス)、年をとると貯金を取り崩して生活する(貯蓄率マイナス)」というものです。

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