「日本電産がルネサス買収へ大勝負」説の真否 買収王、永守社長の見立てはいかに?

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業績は順調そのもの。気になるのはルネサス買収の行方だ。ルネサス株の売却先候補として、これまで、ドイツの大手半導体メーカーであるインフィニオンやソニーが有力と報道されてきた。その中で日本電産も有力候補として浮上しており、来月にも入札が行われると報道された。この報道の真偽を問われた時の回答が冒頭のコメントだ。

モーターメーカーとして”回るもの、動くもの”に特化したM&A戦略をとってきた日本電産と半導体メーカーのルネサスという組み合わせは、異色なものにも見える。だが、日本電産は車載向けでビジネスを拡大するにあたり、制御分野にも食指を伸ばしている。実際に、2014年3月には電子制御ユニットメーカー、ホンダエレシス(現日本電産エレシス)を買収している。

単なる部品屋ではなく、システム全体の一括提供、果ては独ロバート・ボッシュのような”グローバル総合電機メーカー”を目指す日本電産にとって、車載用半導体で世界首位級のシェアを持ち、トヨタ自動車と関係の深いルネサスを傘下に収めることは、目標に大きく近づくことになる。

一部取得にとどまる可能性も

会見で、永守氏は買収への旗幟こそ明確にしなかったものの、「今まではハードで制御していたモーターだが、今ではソフトで制御するようになってきている。IC(半導体集積回路)を持つことでまったく違うモーターを作れるようになる。方向性としては、そういうところも内製化して全部自分で作れるようになりたい」と半導体内製化への意欲を語った。

産業革新機構の勝又幹英社長は、ルネサス株の売却について「官民ファンドの場合、投資リターンの最大化だけが評価基準ではない。経済合理性の枠内に限らない多くの選択肢がある」と述べている(撮影:梅谷秀司)

ただ、ルネサスの時価総額は1兆円以上。仮に全数取得でなく過半取得による子会社化にとどめたとしても、日本電産にとってかつてない規模のM&Aになる。

しかも、ルネサスは2014年度に設立以来初の黒字化を達成したばかり。東日本大震災以降、シェアは下落傾向で、収益基盤は盤石とは言えない。これまで約40件にのぼるM&Aを手がけ、数々の赤字企業を建て直してきた永守氏にとっても大勝負となることは間違いない。

永守氏が目指すボッシュを見ると、車載向け半導体分野でインフィニオンと親密な関係にあるものの、大株主として資本関係を持つわけではない。日本電産がルネサスの株式を取得する場合、一部にとどまる可能性もあるだろう。最終的に、ルネサスをどこが、どのような形で射止めるのか。当面は、”買収王”永守氏の動きに注目が集まり続けることは間違いない。

渡辺 拓未 東洋経済 記者

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わたなべ たくみ / Takumi Watanabe

1991年生まれ、2010年京都大学経済学部入学。2014年に東洋経済新報社へ入社。2016年4月から証券部で投資雑誌『四季報プロ500』の編集に。精密機械・電子部品担当を経て、現在はゲーム業界を担当。

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